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意欲的な取り組みに挑む中小企業

生分解性プラスチックの生産や商品化に対する取り組みについて、具体的に教えてください。

小松氏: 特に欧州ではドラスチックな変化がみられます。例えば、ドイツのプラスチック原材料メーカーであるBASFです。同社は、年間売上高約8兆円を誇るプラスチック原材料メーカーです。それにもかかわらず、いやだからこそと言うべきでしょうか、2016年に開催された世界最大規模のプラスチック・ゴム専門ショー「K2016」で、プラスチックが「地球温暖化や海洋マイクロプラスチックなどの環境課題の原因もつくってきた」と認め、環境問題の解決に先陣を切ると表明。生分解性プラスチックの実用化と非分解性プラスチックのケミカルリサイクルに取り組んでいます。

 技術とコスト面で安定して生産できるようになってきた生分解性プラスチックのポリ乳酸(PLA)は、飛躍的に生産量が伸びそうです。オランダのTotal Corbion PLA(トタルコービオンPLA)は現時点で年間約7万5000tの生産能力を持ち、さらに約10万tを生産できるプラントを現在フランスに建設しています。米国のNatureWorks(ネイチャーワークス)は、現時点でPLAの世界首位の供給メーカーで、年間約16万5000tを生産しています。

日本の企業の動きはどうでしょうか。

小松氏:残念ながら大手企業の供給者に目立った動きはなさそうです。実は08年のいわゆるリーマン・ショックまでは、帝人やトヨタ自動車などがPLA製品の開発・生産に取り組み、世界的なリーダーシップを取っていたのです。ところがリーマン・ショックと11年の東日本大震災の影響でPLAの開発・生産から次々と撤退し、そこから立ち直れていないのが実情です。

 ただし、中小企業を中心にPLAの製品化などに興味深い動きがみられます。例えば、カミーノ(東京・港)は植物成分が96%以上の熱可塑性樹脂「PAPLUS(パプラス)」を開発。耐熱性(約120℃)もあり、カフェのカップやトレー、化粧品容器などでも使用できるとPRしています。

 三義漆器店(福島県会津若松市)は伝統工芸品にPLAを採用しています。会津地方の伝統的な「会津塗」を施したPLAの杯を「紫翠盃(しすいはい)」として商品化。既にネットで世界へ向けて販売しています。PLAの表面に蒔絵(まきえ)師が漆で仕上げるのです。工業製品だけではなく、手工芸品でもPLAを使えるのを示す意欲的な試みです。

 間伐材から抽出した「ヘミセルロース」をペレット化して天然由来素材100%の生分解性プラスチック「HEMIX」を開発したのが、事業革新パートナーズ(川崎市)です。ヘミセルロースは樹木に約20%含まれる成分ですが、通常は廃棄されています。これを有効活用して、生分解性プラスチック化に成功しました。JR東日本とタイアップしてタンブラーを土産物として販売し、地域活性化にもつなげる狙いです。原料となる間伐材は、JR東日本の線路脇にある鉄道林で伐採しています。他の種類の生分解性プラスチックの副資材としての適用も進められています。

 残念ながら日本企業は一度、生分解性プラスチックの開発・製造から退いてしまいました。しかし、化石燃料資源由来のプラスチックから生分解性プラスチックへのシフトは、世界的な潮流であり、不可逆と考えられます。中小企業や一般消費者の意識と行動が変われば、日本流のボトムアップで生分解性プラスチックのニーズが高まり、普及して、海洋プラスチック問題の解決や、CO2の排出量削減に寄与できるのではないでしょうか。

小松道男(こまつ・みちお)
小松技術士事務所所長・ものづくり名人
アルプス電気(現アルプスパイン)を経て1993年に小松技術士事務所設立。技術士(機械部門)、日本技術士会フェロー、プラスチック射出成形金型・成形システムの研究開発、ポリ乳酸(PLA)射出成形ビジネスの事業化、超臨界微細発泡射出成形技術(MuCell)の研究、バイオプラスチック応用技術開発などに携わる。2017年4月「文部科学大臣表彰」科学技術賞(技術部門)受賞。2018年1月「第7回ものづくり日本大賞」内閣総理大臣賞を受賞、「ものづくり名人」の称号を得る。2020年6月「型技術協会」技術賞受賞。2020年11月第1回気候変動アクション環境大臣表彰において「気候変動アクション大賞」受賞。生分解性プラスチック成形法などの特許発明を293個保有する。著書に「バイオプラの教科書」(日経BP)、「事例でわかるプラスチック金型設計の進め方」(日刊工業新聞社)、「プラスチック射出成形金型」(共著、日経BP)など多数。