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 短時間で充電できて低価格の超小型電気自動車(EV)が、EV普及の鍵を握る――。「日経クロステック ラーニング」の「マイクロEVの設計・製作から学ぶEVの基礎」の講師である群馬大学非常勤講師および研究員の松村修二氏はこう指摘する。超小型EVは、通常のEVと何が違うのか。普及のために何が重要なのか。そのポイントを松村氏に聞いた。(聞き手は高市 清治)

超小型電気自動車(EV)が注目を集めています。

群馬大学非常勤講師および研究員(元富士重工業 スバル技術研究所 プロジェクトジェネラルマネージャー)の松村修二氏
群馬大学非常勤講師および研究員(元富士重工業 スバル技術研究所 プロジェクトジェネラルマネージャー)の松村修二氏

松村氏:入門者向けのEVとして、EV普及の鍵となる可能性を秘めるからです。低価格で、日常生活での使用に十分な性能を持つ。もちろん二酸化炭素(CO2)を排出しないので、日本政府が推進するカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)に貢献します。「まずは超小型EVの普及を図る」という考え方が、国や企業の間で広がり始めているのです。

そもそも超小型EVとは、どのようなEVなのでしょうか。

松村氏:1〜2人乗り程度の小型のEVです。国が定める「超小型モビリティ」はおおむね最高速度が時速60km、定格出力が8kW以下。軽自動車より小さいEVです。高速道路は走れませんが、一般的な公道は走れます。「超小型」といってもパワートレーンを含めて、メカニズムは普通のEVと同じです。

 私が群馬大学で造っている超小型EVは前述の超小型モビリティの一部で、原動機付き自転車に区分されるタイプです。モーターやインバーター、タイヤなどの部品を購入し、ボディーを自作しています。完成後に自治体に届け出ればナンバープレートが交付され、公道を走れます。最大出力や走れる道路などに法制度上の制約の違いはあるものの、EVそのものです。

超小型EVのメリットは何でしょうか。

松村氏:割り切って用途を限定しさえすれば、EV普及の妨げとなっている弱点と無縁である点です。スーパーマーケットへの買い物や、最寄りの駅まで家族を送るといった日常的な用途であれば、フル充電で走行できる「航続距離」は20〜30km程度でも十分でしょう。仮に50km走行させたいとしても、電池の容量は普通車のEVよりずっと小さくて済みます。

 電池はEVのコストが高止まりしている理由の1つです。現時点では充電池だけで100万円程度のコストがかかりますが、超小型EVならこれを5分の1程度まで下げられます。ボディーも小さいですからさらにコストが下がります。

 小さい充電池なら、フル充電する時間も短縮できます。電池出力などによっても異なりますが、一般的な普通車のEVをフル充電するのにかかる時間の目安は、家庭で使われている100V普通充電器で半日から1日、200V普通充電器でも4~8時間。その点、超小型EVなら2時間程度でフル充電できます。

 EVがなかなか普及しない理由の1つに充電スポットが十分でない点が挙げられます。しかし、短距離の利用で、フル充電にかかる時間も短ければ、自宅での充電で十分です。

 航続距離の短さも、日常の用途に限れば問題になりません。EVの最大走行距離はフル充電時で、満タン給油時のガソリン車に比べて半分以下と言われています。ガソリンタンクの容量や燃費によっても異なりますが、満タン給油時のガソリン車の航続距離はだいたい500〜1000km程度。電池容量や電費によって異なりますが、フル充電した普通車のEVの航続距離は200〜400km程度です。

 この差を急に縮めるのは技術的に困難です。しかし、近隣にある駅やスーパーマーケットと自宅とを往復するだけなら、100kmもいりません。3人、4人を乗せて遠方まで旅行する、という用途では使えませんが、最高速度が時速60km程度で、高速道路を利用せず1人でさくっと近所で用事を済ませたいという用途なら、問題ないはずです。