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光触媒による人工光合成はいつから研究されているのでしょうか。

工藤氏:研究自体は1960年代の「ホンダ-フジシマ効果」の発見から始まっています。しかし水素を効率よく取り出せる材料の発見に難航し、90年ごろから光触媒による人工光合成の研究は低迷しました。2000年以降、可視光で反応する光触媒など、新しい光触媒材料が発見され、日本国内では現在、産官学で光触媒を用いた光エネルギー変換反応による人工光合成の研究に積極的に取り組んでいます。

既に実用化されているのでしょうか。

工藤氏::光触媒を用いた人工光合成の実用化はまだこれからです。太陽エネルギー変換効率が、まだ実用に耐え得るレベルに達していないからです。

 実用化に向けて進められている研究の1つは、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)、東京大学、信州大学らが共同で取り組んでいる、粉末の光触媒を利用した水からの水素の大量生産です。屋外に、光触媒の粉末を塗ったガラス製のパネルを張り巡らせた設備を作り、そこに水を注いで太陽光を当て、水を分離して水素を取り出すという、水素製造プラントの基礎となる技術を研究しています。光触媒開発のみならず、爆発の危険性を回避する安全性も含めた研究です。 

 大量のグリーン水素を生成するには、たくさんの光触媒パネルを配置する必要があります。粉末の光触媒を塗ったパネルは安価に製造でき、しかも容易に大面積化できます。太陽光発電パネル+水素製造水電解槽システムのような高額な設備が不要なため、設備がシンプルで工事費用も抑えられます。

 水素は酸素があると爆発を起こす危険性があるため安全管理が課題です。ただし、そうしたリスクを踏まえても、太陽光発電と比較して設備コストを大幅に抑えられると考えられています。

普及に向けた課題は何でしょうか。

工藤氏:やはり光触媒の太陽エネルギー変換効率の向上が、最大の課題です。そのカギは新材料の探索に尽きます。

 紫外光に関しては量子収率*2が100%に近かったり、可視光に反応したりする光触媒は作れたものの、市場での普及に耐え得る太陽エネルギー変換効率が得られていません。AI(人工知能)などコンピューター技術を用いた材料探索の研究も進んでいますが、固体の複雑な現象を取り扱う光触媒の研究は、まだまだ解明されていない点が多い。そのため、研究者の知恵と勘に依存している部分が大きいのです。現在、AIのような技術を併用しつつ、1日でも早い新材料の発見を目指して研究が続けられています。

*2量子収率:触媒が吸収した光子のうち反応に寄与した割合
工藤昭彦(くどう・あきひこ)氏
東京理科大学理学部第一部応用化学科 教授
工藤昭彦(くどう・あきひこ)氏 1961年生まれ。88年に東京工業大学大学院総合理工学研究科電子化学専攻博士後期課程修了後、88年に米テキサス大学博士研究員に。その後、東京工業大学大学院総合理工学研究科電子化学専攻・助手、東京理科大学理学部第一部応用化学科・講師、東京理科大学理学部第一部応用化学科・助教授 などを経て、2003年4月から現職。