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「電気自動車(EV)にも課題はあり、欧州でもハイブリッド車(HEV)再評価の動きがある」。フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズのダイレクターである柏尾南壮氏は、ミュンヘンモーターショーを見学し、EVを分解した経験からこう語る。「日経クロステック・ラーニング」で「自動車を取り巻く環境の激変と日米欧のEV比較」の講師を務める同氏に、EVの現状を聞いた。(聞き手は高市清治)

フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ・ダイレクターの柏尾南壮氏
フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ・ダイレクターの柏尾南壮氏
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ドイツ自動車産業連合会(VDA)がドイツ・ミュンヘンで開催した「ミュンヘンモーターショー」(IAA MOBILITY 2021:2021年9月7日 ~ 21年9月12日)をご覧になった印象をお聞かせください。

柏尾氏:例年、50万人程度が集まる大規模イベントですが、21年も新型コロナウイルス感染症の拡大にもかかわらず約740社が出展し、約40万人が集まったと聞いています。今回から自動車に限らず、ドローンや電動アシスト自転車など「モビリティー(移動手段)」に関するハードウエアからソフトウエア、付帯サービスに至るまで幅広く取り上げるようになりました。

 中でも注目を集めたのが、やはり電気自動車(EV)です。EVに関する展示やシンポジウムを見聞きして印象に残ったのは、大きく2つです。1つは「EVのバッテリー問題は解決に時間がかかる」、もう1つは「自動運転の普及に関しては自動車業界全体でトーンダウンしている」です。

ビールの泡で充電時間の問題を説明

バッテリーの何が問題視されていましたか。

柏尾氏:特に印象に残っているのは、充電時間がかかりすぎる点と、どのようにしてリサイクルを進めるかという点の2つです。

 改めて説明するまでもないでしょうが、現時点でEVのバッテリーで主流となっているリチウム(Li)イオン2次電池は、急速充電といっても充電時間の短縮に限界があるようです。現地では、ビールと泡の関係に例えて説明するデモを見ました。

 グラスにビールを急いで注ぐと泡が出ますよね。泡があふれそうになるとビールを注ぐのをやめます。やめないと泡がこぼれるから、グラスの容量いっぱいになっていなくてもビールを注ぐのをやめるわけです。

 リチウムイオン2次電池では、急速充電を行うと電池内で電気抵抗が高まり、「満充電になった」という誤ったサインを出すのです。まだ充電できるのにもかかわらず、このサインが出た以上、充電を止めなくてはいけません。本当に満充電になっているのに、それを無視して充電を続けると液漏れなどのトラブルが発生しかねないからです。

 「電気抵抗」という「泡」が発生すれば、仮に誤ったサインだとしても、そのたびに充電を止めて実際に満充電か否かを確認しなくてはならず、その分、時間を要するわけです。どうやって素早く満充電にするか。これが最大の研究テーマなのだと多くの企業が強調していました。

バッテリーのリサイクルは何が話題になっていたのでしょうか。

柏尾氏: EVの寿命を15〜20年とした場合、リチウムイオン2次電池はその寿命の時点でも定格出力の8割程度を出力できるとされています。何らかの手法で分割すれば、家電製品などのバッテリーとして十分再利用できます。

 現時点ではなかなかバッテリー自体のリサイクルには至っていません。だからといって、何らかの安全対策を取らないでリサイクルするのは危険です。EVのバッテリーは大容量で高電圧ですから、そのままでは感電や火災のリスクがあります。

 EVは二酸化炭素(CO2)削減に貢献するのを売りにしています。それにもかかわらず、リチウムイオン2次電池という製造時にCO2を発生させる部品を無駄遣いしては、その存在意義に関わります。自動車メーカーやサプライヤーはこの点を強く意識しており、効率的にリサイクルする手法を模索しているようでした。