自動車の自律型自動運転システムの社会実装へ向けた技術開発が急ピッチで進められている。自律型自動運転には3種類のセンサーと人工知能(AI)による周囲環境の分析が欠かせないが、もう1つ重要なのが「自動運転用地図データの整備」だ。自律型自動運転実現に向けた最新の動向や、自動運転用地図の役割などについて、「日経クロステックラーニング」で「自律型自動運転技術の動向と運転用地図」の講座を持つ金沢大学高度モビリティ研究所教授の菅沼直樹氏に聞いた。

自動車の自動運転は現在どのような状況にあるのでしょうか。
菅沼氏:まず海外では、米カリフォルニア州やネバダ州などでタクシーやバスなどのいわゆる「サービスカー」での自動運転が実現しつつあります。一般にイメージされる「目的地まで自動的に走行してくれる」「呼び出したら自分のところまで来てくれる」といった自動運転によるサービスが現実に近づいてきています。中国でも同様のサービスが始まっているとの報道も目にします。
海外が「サービスカー」向けの「完全自律」の自動運転を中心に進めているのに対して、日本では基幹産業である自動車産業が販売する、いわゆる「オーナーカー」の自動運転を中心に進めているのが現状です。
オーナーカー向けの自動運転、運転手はプロではないので完全自律でどこにでも行くというよりは、走行する範囲を限定して自動化するというのが今の流れです。例えば、ホンダが2021年、レベル3(条件付き運転自動化)の自動運転を世界に先駆けて実現したレジェンドの販売を開始しましたが、これも高速道路での走行に限定していました。
「自律型」ではない自動運転もあるのでしょうか。
菅沼氏:自動運転には大枠で「自律型」と「インフラ協調型」の2種類があります。自律型は車載センサーや情報処理技術を使って基本的に自動車だけで自動運転をするタイプです。インフラ協調型は、自動車だけではなく信号機など道路付帯物に設置した磁気マーカーとセンサーなどとの連携で自動運転を実現するタイプです。インフラ協調型によって、車載センサーや車載コンピューターを高性能化しなくても自動運転を導入できるメリットがあります。国内でもゴルフカートを自動運転させるインフラ協調型の実証実験が進められています。
3つのセンサーに加えて「自動運転用地図」が重要
自律型自動運転を実現するためには、主にどのような技術が用いられているのでしょうか。
菅沼氏:まず必要なのが周囲の環境を理解するセンサーです。レーザー光線を使うLiDAR(レーザーレーダー)と、周囲の画像を撮影するカメラ、電波を使うミリ波レーダーの3つがあります。これらのセンサーから得た情報をAIなどの技術を用いて解析しながら周辺状況を認知・判断していきます。
各センサーの主な役割を具体的に説明してください。
菅沼氏:一番分かりやすいのがカメラです。周囲の高解像度画像を取得して、周辺に何があるのか、そこにあるものの意味を理解するのに利用します。LiDARはレーザーの反射で対象物までの距離を計測するので、それによって周辺環境の3次元的な位置関係を詳細に把握できます。周辺空間に何が存在していて、それがどんな大きさでどんな方向を向いて、どういう動きをしているのかといった基本的な情報をLiDARとカメラで取得できます。
電波を使うミリ波レーダーは、カメラやLiDARなど光を使うセンサーが弱い霧や雨などの環境でも、自動車などの大きな物体を捉えられるので、周辺環境を把握して運転を判断する信頼性がより上がります。
この3つの基本的なセンサーに加えて、同様に重要なのが、走行する周囲の空間を詳細に記録した自動運転用地図(以下、地図)です。LiDARとカメラ、ミリ波レーダーはリアルタイムに走行する様子を捉えるもの。これに対して地図は、過去に走った時のセンシングデータのようなもので、事前知識として「第4のセンサー」があるというイメージです。
自動運転用地図はどういったものでしょうか。
菅沼氏:自動運転システムによって異なるのですが、最新の自動運転システムのほとんどは高精度な地図を必要としています。従来のカーナビゲーションの地図に似たものもあれば、3次元的な情報を捉えたデータを地図として使う場合もあります。