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なぜ自動運転用地図が重要になるのでしょうか。

菅沼氏:道路の情報を先読みして、より安心・安全な運転が可能になるからです。カメラやLiDARのようなセンサーは、映像を捉えられたり、電波が届いたりする範囲の情報は得られますが、それ以外の範囲の情報は得られません。自動運転用地図を用いれば、「今走っているレーンが右折専用レーンになる」「右折した先には横断歩道がある」といった情報を得られます。全く知らない土地でも土地勘のある道路のように、安心・安全に走るためには、高精度地図が非常に重要になるのです。

自動運転用地図にはどのような情報が必要になるのでしょうか。

菅沼氏:高精度かつ最新であることが求められます。例えば、18年から米国でサービスが提供されている自動運転タクシーの「Waymo」は、決められた範囲でしか自動運転をしていません。その理由の1つに、地図が用意されている範囲が限られている点が挙げられます。

自動運転用地図はどのように作製するのでしょうか。

菅沼氏:2段階に分かれています。まず、走行したいエリアを計測車両もしくは自動運転車両で走り回り、周辺空間の3次元的な状況を記録します。次にそのデータを処理してマッピングします。GPSなどで自動車がどの位置にいたのかを正確に特定しながら、その位置情報に基づいて自動車が走行してきた周辺環境の情報を地図として当てはめていきます。そのうえで、3次元環境のデジタルデータに白線や横断歩道、信号機などの情報も統合します。

自動運転用地図は、自動車メーカーや地図情報会社が準備するのですか。

菅沼氏:恐らくそうなるでしょう。現状では自動運転の実証実験をしているグループなどは、自分たちでデータを収集して地図を作っている場合も多いです。

 日本国内では、政府や自動車メーカー、地図会社などが中心になってダイナミックマップ基盤(東京・中央)という会社を設立しており、データ収集や産業化に向けて積極的に活動している状況です。

自動運転用地図には標準化の動きはあるのでしょうか。

菅沼氏:標準化は難しい状況にあります。自動運転システムにどのような地図が必要なのか、各社で考え方が異なるからです。その中で、先述したダイナミックマップ基盤が自動運転用地図に必要なデータを整備し、標準化に向けて動いているようです。

最近は「移動物の追跡」や「パスプランニング」などの進歩が著しいと聞きます。これはどのような技術なのでしょうか。

菅沼氏:移動物の追跡とは、自動車の環境を予測する技術だと思ってください。自動運転中の自動車の周囲には、動いている物体がたくさんあります。LiDARなどのセンサーでは、あくまでもセンサーが検知した瞬間に物体がどこにいるかしか分かりません。それを時系列で見続けると、それぞれの物体の動きを予測できるようになります。

 パスプランニングという技術は、その予測に基づいてどのように動くかを考える技術の総称です。つまり、移動物の追跡とパスプランニングとは切っても切れない関係にあります。

2025年度には40カ所以上で社会実装される見通し

今後は日本中、世界中の公道を網羅する自動運転用地図が作られるのでしょうか。

菅沼氏:自動車メーカーが「世界中の公道」というレベルの広範囲を走行できる自動運転システムを販売するためには、そういった地図を作らないと実現できません。

 自動車メーカーはまず高速道路に限定して自動運転できるようにする戦略を取っています。高速道路での自動運転が実現したら、次は一般国道や主要道路、その次に市街地内の道路などまで含めてデータを整備した地図を作製して市販していくと思います。

 ただしその前に、例えば米Waymoが提供しているような限定されたエリアで自動運転できるバスやタクシーのようなサービスカーが出てくるでしょう。日本中、あるいは世界中の地図を用意するには多大なコストと時間がかかります。全部の地図が完成するのを待っていたら、いつまでも自律型自動運転を開始できません。限定されたエリアからスタートして、地図を準備できたところから拡大していくのが現実的でしょう。

今後の自動運転システムのロードマップを教えてください。

菅沼氏:予想は非常に難しいのですが、国が進めている「RoAD to the L4」では、25年度までに40カ所以上のエリアで自動運転システムを社会実装する目標を掲げています。サービスカーについては、比較的間近に迫っているのではないでしょうか。

* RoAD to the L4:経済産業省が国土交通省と連携し、自動運転レベル4以上の先進モビリティーサービスの実現・普及に向けて研究開発から実証実験、社会実装まで一貫して取り組む「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト」のこと。

 ただし、これは例えば廃線跡地を通る自動運転システムなどかなり限定的なもので、インフラに依存する形にならざるを得ません。運転手が操縦する必要のないレベル4クラスの自律型自動運転が一般の人に身近になるのはもう少し先でしょう。30年ごろに高速道路や主要道路などで実現し、さらに5年、10年後に一般道で利用できるというイメージではないかと予想しています。

菅沼直樹(すがぬま なおき)
金沢大学高度モビリティ研究所教授
2002年に金沢大学大学院自然科学研究科システム創成科学専攻博士課程修了。同年に金沢大学工学部助手、06年に金沢大学理工研究域講師、15年に金沢大学新学術創成研究機構自動運転ユニット ユニットリーダー准教授に就任。1998年から自動運転自動車の研究を開始。2021年から現職。2015年からは国内の大学として初となる市街地での公道走行実験も実施している。