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製造業にとって喫緊の課題の1つが、ベテラン社員の退職やノウハウの継承不足による技術の喪失だ。図面や仕様書だけでは、古い製品の修理に対応できない、新しい製品の生産に対応できないといった事態が起こる。それを防ぐのがトヨタ流「設計ノウハウ書」。「日経クロステック ラーニング」の「技術の喪失を防ぐ トヨタ流『設計ノウハウ書』の作り方」で講師を務めるA&Mコンサルト取締役専務の中山聡史氏に「設計ノウハウ書」について聞いた。(聞き手は高市清治、コヤマ タカヒロ=フリーランスライター)

 トヨタ流「設計ノウハウ書」とはそもそもどのようなものなのでしょうか。

中山氏:トヨタ自動車ではクルマごとに、部品の評価基準や基準値などを定めています。設計における基準の作り方や評価、使い方などをまとめたものをトヨタ流「設計ノウハウ書」(以下ノウハウ書)と呼んでいます。

 基本的に設計マニュアルや図面には、このように作りなさいという指示や、寸法が書いてあるだけで、評価方法や基準値は記されていません。基準値とは、例えば「この数値以下はダメですよ」といった評価の結果です。こういったデータは多くの場合、ベテラン個人の頭の中にあって、会社として管理しているところはほとんどありません。ノウハウ書には、そういった基準や閾値(しきいち)が細かく記されています。

 トヨタ流のノウハウ書は部品単位ではなく、基本機能ごとにまとめているのが特徴です。少し形や穴の位置が違うような類似部品が100個あったとしても、基本機能が一緒ならノウハウ書は1つにまとめられていて、検索できるようになっています。

 基準値や閾値などのデータがないと何が困るのでしょうか。

中山氏:例えば図面にクリアランスの数値が書いてあるとします。ある図面には10cm、別の図面には12cmと書いてあった場合、どちらが正しいのか分かりません。10cmでも12cmでもいいのか、10cm以下になってはいけないのか、図面だけでは判断がつかない。このため、品質を管理する上で、最低限求められる数値を基準値として示す必要があります。

 ノウハウ書がなくても、全く同じ製品なら作れますが、基準値が分からない状態では、改良を加えるのが難しくなります。図面に10cmと記載されていても、それがどういう基準で定まったのか分からなければ、10cmから変えた場合に品質が悪くなったり、大きな不具合につながったりします。そこで、これまで口伝だったり、ベテランだけが知っていたりといった情報を全てデータ化して管理しましょうというのがノウハウ書です。

 ノウハウ書はどのように運用するのでしょうか。

中山氏:例えば、燃料タンクを考えてみます。四輪駆動車の場合、真ん中に後輪を動かすためのシャフトを通すので、それをまたぐようにタンクを取り付けます。このときに、シャフトの熱がタンクに伝わる可能性があります。このため、昔はプラスチック製にできませんでした。

 しかし、熱に耐えられるプラスチックが出てきた。そのような場合に、ノウハウ書の燃料タンクの基準値や要件などを参照して、プラスチック製に変えられるのか、基準をクリアできるのかをチェックする、といった使い方をします。