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国連は2050年にカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ、炭素中立)を掲げており、自動車産業も脱炭素時代の戦略が求められている。そこで必要なのは電気自動車(EV)に絞り込むのではなく、ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)などを含めた「全方位開発」だ。「日経クロステック ラーニング」の「脱炭素時代の自動車戦略2022 日欧米中の戦略とあるべき戦略」の講師である藤村俊夫氏はそう訴える。各国政府やメーカーの戦略の違いと、日本メーカーがとるべき戦略とは何か。藤村氏に聞いた。

Touson自動車戦略研究所 代表、自動車・環境技術戦略アナリストの藤村 俊夫氏
Touson自動車戦略研究所 代表、自動車・環境技術戦略アナリストの藤村 俊夫氏
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2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、国や自動車メーカーが優先的に取り組むべきことは何でしょうか。

藤村氏:自動車の電動化については、欧州のように顧客に負担を強いるEV推進に偏るのではなく、ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)も含めた全方位開発を進めるべきです。

 しかし、クルマの電動化だけでカーボンニュートラルが実現できるわけではありません。カーボンニュートラル燃料の普及も必要です。開発が進んでいるe-Fuel(合成燃料)や微細藻類バイオ燃料などの供給量拡大とコスト低減を進める必要があります。自動車の電動化とカーボンニュートラル燃料の開発を並行して進める必要があります。

 そして何よりもカーボンニュートラル実現を急がなければならないという危機感を持つこと。これに尽きます。

なぜ危機感を持たなければならないのでしょうか。

藤村氏:日本政府をはじめ、主要国が2050年までに温暖化ガスの排出全体としてゼロにする、カーボンニュートラルの実現を宣言しているのは周知だと思います。産業革命以降の平均気温上昇を1.5℃以下に下げるという、COP25(国連気候変動枠組条約第25回締約国会議)で定めた目標を達成するためです。しかし残念ながら、二酸化炭素(CO2)排出量が世界ワースト1の中国の目標の達成時期は2060年、ワースト3のインドは2070年と遅いのが実情です。今年(2022年)エジプトで開催されるCOP27で再度議論が必要です。

 また、CO2を 2030年までに2010年比で45%削減できなければ、産業革命以降の世界の平均気温上昇は1.5℃を超え、気候危機の連鎖が始まります。そうなると人類の手ではもはやどうすることもできません。残された時間が10年も残されていないと考えると、2030年の目標はハードルが非常に高いのです。

 ところが、日本政府が掲げている目標は、CO2排出量を2030年までに2013年比で46%削減するというものです。この目標は2010年比で換算すると41%に相当し、45%に達していません。米国、EUの目標は45%を超えています。先進他国に比べて、日本の政治家は温暖化対策に対する危機感が欠けています。

自動車の電動化とカーボンニュートラル燃料の普及を並行して進めるべき

自動車の電動化を進めるに当たって、何に注意すべきでしょうか。

藤村氏:まずEV一辺倒の風潮を改めるべきです。新車販売を全てEVにすればカーボンニュートラルが実現するわけではありません。この点を肝に銘ずべきです。

 例えば、保有台数に対する視点が欠けています。自動車のCO2削減対象は、新車だけではなく既販車も含めた保有車が対象です。新車だけではなく既販車のCO2削減も進めなければ、2030年の目標達成は困難です。 

 2021年時点で自動車は、世界に12億台程度あります。それに対して年間販売台数は8000万台。日本の保有台数は7800万台程度で、年間販売台数は400万台です。仮に日本で販売される新車が2022年からすべてEVになったとしても、2030年までに売れるEVは8年間で3200万台。保有台数の41%程度です。どうあがいても世界中の自動車がすべてEVに入れ替わるとは考えられません。

 日本国内で最大見積もって保有台数の41%にしかならないEVですら、WtW*1、LCA*2でのCO2はゼロではありません。このような理由から、EVを必死で販売してもCO2の45%削減は無理なのです。私はEV否定論者ではありませんが、WtWやLCAの観点で評価すると、HEVなどに比べてEVが必ずしも優位ではない点は強調したいです。

*1  WtW :Well to Wheel。油田での原油採掘から自動車のタイヤが駆動するまでのCO2排出量を評価。
*2  LCA :Life Cycle Assessment。原料採掘から製造、使用、リサイクルなど全段階での環境負荷の評価。

 また、ロシアのウクライナ侵攻により、エネルギー調達が不安定な中で、欧州各国のリーダーはEV用のグリーン電力を果たして調達できるか懐疑的になっています。小型モジュール炉の拡大設置が容認されるほど、グリーン電力の供給を取り巻く環境は厳しくなっています。グリーン電力の供給が伴わなければ、電力を消費するEVの普及によるCO2排出量削減も難しくなります。

 だからこそ、HEVなどを含めた電動自動車の全方位開発と、既販車のCO2排出量削減に効果があるカーボンニュートラル燃料開発を同時進行で進めなくてはいけないのは自明なのです。

 WtW、LCAの観点で電力の排出係数も考慮したうえで、CO2削減に効果のある電動化自動車を全方位で開発して導入拡大を進めるべきです。一方で「2030年までに2010年比で45%削減」という目標を実現するために、大半がエンジン車とHEVが占める既販車については、ガソリンスタンドでガソリンあるいは軽油に、e-Fuelや微細藻類バイオやなどのカーボンニュートラル燃料を混合(ドロップイン)して、保有車全体のCO2削減を進める必要があります。

 カーボンニュートラル燃料の製造に関しても供給量、コストダウンの観点で課題はありますが、電力の排出係数低減や再生電力量の拡大余地、電池のエネルギー密度改良に関してはさらに多くの課題があり、数年では解決できません。2030年以降、電動化自動車でEV、HEV、PHEV、FCEVのいずれが主流になり得るかは、グリーン燃料やグリーン電力、電池性能、車両コスト、CO2排出量、顧客への負担の程度などの動向で決まります。自動車業界はエンジン車を含め電動化自動車の全方位開発を進め、石油業界は死に物狂いでカーボンニュートラル燃料の開発を加速しなければいけません。

 日本でカーボンニュートラル燃料の必要供給量を確保できなければ、海外にオフグリッドプラントを設置し、そこで製造して輸入すればいいのです。グリーン電力は輸入できませんが、グリーン燃料なら輸入できます。そのためには日本に数多く存在する、プラント製造に関する技術を持つ企業の技術力を活用する必要があります。