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電動化や次世代燃料の推進に伴って、自動車の構造が大きく変化している。米Tesla(テスラ)の電気自動車(EV)「Model 3」とドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)のEV「ID.3」、トヨタ自動車の燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」を分解し、3車種に搭載されている電装品の違いを分析したフォーマルハウト・テクノ・ソリューションズの柏尾南壮氏は、「テスラの独自性が際立つ」と話す。「日経クロステック・ラーニング」で「日米欧先端技術搭載車3台を一挙分解展示、技術力を徹底比較分析」の講師を務める同氏に、3車種の構造の特徴とクルマの未来像について聞いた。

フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ ダイレクターの柏尾南壮氏
フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ ダイレクターの柏尾南壮氏
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トヨタ自動車のFCV「ミライ」と、米テスラのEV「Model 3」、ドイツVWのEV「ID.3」を分解されました。

柏尾氏:世界の自動車市場をリードする日米欧の3社が販売するクルマから、今後の自動車業界の動向を占う3車種を選びました。今回の調査では「パワートレーン班」と「バッテリー班」、「その他電装品班」の3つの作業班を編成。私はその他電装品でしたので、クルマの動力や電池に関わらない部分について調査しました。調査の結果、強く印象を受けたのは、自動車メーカーのDNAを持たない会社だからこそ発想できるテスラのユニークさでした。

テスラならではの自由な発想

自動車メーカーのDNAを持たないとは、具体的にはどういうことでしょうか。

柏尾氏:端的に表れていたのがドライブコンピューターです。ここは自動車の頭脳に当たり、決して壊れてはいけない部分なので、できるだけ部品を少なく、シンプルに造るのが従来の考え方でした。テスラはこの部分に数千個も部品を搭載していました。こういう部品の組み上げ方は、従来の自動車メーカーの考え方とは異なります。

 自動車メーカーは従来、「仮に故障してもバックアップ機能でしばらく動作を維持する」という考え方を採用してきました。一方、テスラは、人工知能(AI)で故障を予測し、「故障前に修理に出させる」という考え方と思われます。

 エンジンやギア、ドアからライトまで至る所に設置したセンサーがデータを収集。テスラはそのデータを、ネットワークを介してクラウドに蓄積し、日々分析しているようです。この分析を基に、AIがクルマの状況を判断します。例えば、異常な振動を検知した場合、道路状況が悪いのか、自動車の故障なのかをAIが判断し、その状況に最適な運転をします。

AIの判断はユーザーにも分かるのでしょうか。

柏尾氏:分かります。例えば、不具合を起こした部品の交換が必要な場合には、カーナビゲーションの画面にメッセージが表示され、最寄りのディーラーで交換するように誘導されるようです。部品の不具合ではなく、ドライブコンピューターのソフトウエアをアップデートすれば解消する場合には、運転の必要がない駐車時にソフトウエアが自動的にアップデートされて、問題を解決します。

必要なデータをメーカー側が収集するための通信機能を搭載しているのでしょうか。

柏尾氏:少なくともModel 3については売買契約書の中に通信に関する規約があり、「必ず4G(第4世代移動通信システム)でデータを提供する」という項目が入っていました。Model 3に乗る上では、運転中の状況などの情報を、通信を介してテスラに提供するのが必須になっているはずです。

他の車種も同じでしょうか。

柏尾氏:欧州では、事故時に4Gなど一般的な通信規格のネットワークで通報できる車両緊急通報システム「eCall」の設置が義務付けられています。テスラとは思想が異なりますが、VWのID.3はeCallを搭載しています。

 ミライには、4Gで常にデータを送る装置が付いていました。ただし、Model 3のようにメーカーへ情報提供するシステムになっているか否かは確認できていません。