2050年のカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の達成に向けて、電気自動車(EV)シフトの必要性が叫ばれている。Touson自動車戦略研究所代表で自動車・環境技術戦略アナリストの藤村俊夫氏は、「EV1本に絞ることは危険。重要なのは、グリーン電力の拡大とグリーン燃料の早期開発・導入による既存車も含めた二酸化炭素排出量(CO2)の削減だ」と説く。業界の壁を越えて、求められている対策は何か。「日経クロステック ラーニング」で「2030年目標必達、政府と産業界が採るべき脱炭素戦略」の講師を務める藤村氏に聞いた。
欧州を中心に電気自動車(EV)シフトの機運が高まっています。
藤村氏:本当にEVシフトの機運が高まっているのか疑問だ。
まずはメディアの報道を真に受けないほうがいいと忠告しておきたい。十分な理解もないまま欧州メーカーの表明をうのみにし、EVが世界的に売れているとあおっているようにさえ見える。「補助金や低価格の超小型EVの導入が販売増に大きく貢献している」というのが実態だが、そう記述している記事はほとんど見当たらない。
「欧州ではEVが売れている」と報道されているが、欧州で最も販売されている電動車はハイブリッド車(HEV)でEVの2倍程度だ(図1)。プラグインハイブリッド車(PHEV)もEVと同程度の台数が販売されており、1~2年後にはEVの販売台数を超えると予想される。顧客もHEVとPHEV、EVのどれを購入するのが正しい選択か、分かってきたのだ。
ドイツMercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)やドイツBMWなどは、PHEVをEVの3~4倍も販売している。さもEVに傾注しているような発言を繰り返しながら、実際にはEVよりもPHEVの機種展開に力を入れているのだ。
PHEVはEVとWtW(Well to Wheel)*1でのCO2削減効果が同等なうえ、価格はEVよりも安い。航続距離も1000kmを超え、一般給電でよいなど、ユーザーへの負担も少ない。
中国では、超小型の低速EV(LSEV)の機種数の増加、2022年末の補助金終了に伴う駆け込み需要などにより、NEV(EVとPHEVの総数)販売は650万台まで伸びた。ただし、多くのEVスタートアップは赤字に陥り、その結果、販売価格を50万~150万円も上げざるを得ない状況になっている。欧州ほどではないまでも、PHEV比率は2021年の18%から2022年は22%まで拡大した。
参考までに、2022年に中国の自動車メーカーBYDはNEVで186万台販売し、テスラの131万台(EVのみ)を抜き世界一となった。BYDの販売台数の内訳を見るとPHVが95万台、EVが91万台とほぼ同等だ。EVしか製造していないテスラや中国スタートアップは今後、苦境に陥るだろう。
一方、PHEVやHEVを製造できるメーカーが優位に立つのは容易に予想できる。EVの補助金が廃止されればこの傾向はより顕著になるはずだ。ちなみに2023年に入り、中国の1月のEVの月間販売台数は2022年12月に比べて既に半減している。