「2030年までに二酸化炭素(CO2)排出量の45%削減は必達だ」。Touson自動車戦略研究所代表で自動車・環境技術戦略アナリストの藤村俊夫氏はこう訴える。「カーボンニュートラル(温暖化ガス排出量の実質ゼロ)実現のためには、企業が連合して解決する以外に道はない」とも説く。「日経クロステック ラーニング」で「2030年目標必達、政府と産業界が採るべき脱炭素戦略」の講師を務める藤村氏に聞いた。
もしカーボンニュートラルを実現できない場合はどうなるでしょうか。
藤村氏:2030年まではハイブリッド車(HEV)とグリーン燃料を主軸にしなければCO2排出量の45%削減は困難だ。自動車だけではなく世界全体でCO2が45%削減できなかった場合にどうなるか。3つのシナリオが考えられる。
1つ目は破滅のシナリオだ。石油や石炭などCO2を排出する燃料を使い続け、地球の温暖化がどんどん進んで人類は破滅するというシナリオ。世界で気候危機の予兆が表れ、毎年、自然災害の被害が甚大化している。自然災害だけではない。シベリアなどの永久凍土溶解により、2万数千種類の細菌やウイルスもまん延する。ひとたび平均気温上昇が1.5℃を超えれば気候危機の連鎖が始まり、その後いくら削減努力をしても人間の手では制御できなくなる。
2つ目は経済活動抑制のシナリオだ。CO2排出量を45%削減するめどが立たなければ、経済活動を抑制して下げるしか残された道はない。自動車に乗るのを控える。電車も船も飛行機も何もかも間引き運転を実施し、エアコンの使用も抑える。コロナ化と同じような状況を、自らに強いることになる。
自動車を含めさまざまな製品の製造は当然できなくなる。倒産する企業も増えるだろう。成長率はマイナスだ。人々の生活は困窮。先進国と呼ばれてきた国が享受してきたエネルギー使い放題、便利さの追求といった生活をあきらめて、CO2排出量の45%削減を目指すことになる。明治時代の生活に戻るというイメージだろう。
しかし、人類はこのようなシナリオに耐えられず、最終的には1つ目のシナリオを選択するかもしれない。いずれにしても、1つ目も2つ目も人類にとって苦しい選択だ。
3つ目は社会全体で知恵を使って正しい施策を進め、今まで通りの暮らしと経済活動を持続しながら、CO2を45%下げていくというシナリオだ。ただし、今後の成長は期待できないことが前提になる。成長とCO2削減は両立できない。生き延びたいのなら、我々が取るべきは成長ではなく、CO245%削減目標の達成の優先順位を上げることだ。