電動化が進む自動車では、車載部品の耐熱設計と放熱設計の重要性が増している。特に、インバーターなどパワー半導体まわりの耐熱・放熱設計には何が求められるのか。「日経クロステック ラーニング」で「電動化に必須の車載機器の高耐熱設計と放熱設計を事例でマスター」の講師であるデンソー半導体基盤技術開発部の神谷有弘氏に聞いた。(聞き手は高市清治=日経クロステック、安蔵靖志=IT・家電ジャーナリスト)
車載電子部品における放熱設計と耐熱設計について教えてください。
神谷氏:その部品の温度が上がらないようにするための対策が放熱設計です。温度が上がりすぎてその部材が壊れ、製品全体が機能を失ってしまうのを防ぎます。
それに対して耐熱設計とは、一定の温度まで製品として機能を失わないように耐えられる設計にすることです。いずれも部品設計において以前からあった考え方です。しかし、自動車の電動化が進む中でその重要性は増しています。クルマに搭載する電子制御部品やアクチュエーター駆動部品がどんどん増えているからです。
車体内の空間は限られているのに搭載部品が増えれば、車載部品には小型・軽量化が求められます。同時に高機能化も必要です。そうすると車載電子機器の放熱性は悪化します。そんな厳しい搭載環境の中で、いかに車載部品の発熱を抑え、発熱の影響が他の車載部品に及ばないようにし、そして、どこまでの温度環境に耐えられるようにするか。特に、発熱が著しいインバーターをはじめとしたパワー半導体と、パワー半導体を組み込む部品の熱マネジメントの重要性は今後、一層増すでしょう。
パワー半導体の耐熱性が向上
熱マネジメントの在り方が変わってきたのでしょうか。
神谷氏:変わってきました。パワー半導体の耐熱性の向上がきっかけです。
例えば、パワー半導体の耐熱温度は従来、150℃が一般的でした。ところが最近は常時175℃保証、短時間なら200℃耐熱というパッケージ品も出てきました。
耐熱性の高いパワー半導体が開発されたことの影響を、クルマの電子制御ユニット(Electronic Control Unit、ECU)の熱マネジメントで考えてみましょう。ECUはアクチュエーターを駆動するためのパワー半導体を必ず搭載しています。175℃耐熱のパワー半導体があるなら、ECUの設計者は150℃耐熱ではなく175℃耐熱のパワー半導体を使いたい。耐熱温度の高いパワー半導体を採用するほうが、放熱設計が楽になるからです。
まず頭に入れておきたいのは、パワー半導体などの耐熱温度が低いと放熱設計が重要になり、耐熱温度が上がると放熱設計の重要性は下がるという点です。
搭載するパワー半導体が高い温度に耐えられるなら、原則としてECUの放熱設計の必要性は下がります。しかし、ECUの中にあるすべての部品がパワー半導体と同じ耐熱性を持っているとは限りません。
パワー半導体の近くには、モーターが発するノイズを吸収するため大容量アルミ電解コンデンサーなどが載っています。パワー半導体の耐熱温度が150℃のときは、基板全体の放熱設計を考えて150℃を超えないようにそれらの部品をレイアウトしていればいいわけです。
ところが耐熱温度が175℃のパワー半導体に置き換えると状況は変わります。パワー半導体の熱が周囲の部品に伝わります。耐熱温度が同じ部品なら問題ありません。しかし、耐熱温度が175℃より低い部品は、耐熱温度が175℃のパワー半導体の熱の影響を受けて劣化したり、損傷したりします。そのため熱の影響を受けないように放熱性に配慮し、基板のレイアウトを変えなければなりません。
耐熱性の高い部品の搭載に合わせて、相対的に耐熱性の低い周りの部品に配慮した設計をする。これがECU設計をはじめとした熱マネジメントのポイントです。
ちなみに自動運転機能を持つクルマの場合は、車載コンピューターや画像処理プロセッサーなどが非常に発熱します。ただし、自動運転車の場合は、放熱設計ではなくそもそも半導体の発熱を抑えるための省電力化が必要になるので、設計の次元が変わります。今回は自動運転の影響については言及しません。