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高輝度化や色の再現性、低コスト化など、ディスプレーの技術合戦が激しくなっている。テレビやスマートフォンのディスプレーは今後、どこまで高性能になるのか。「日経クロステック ラーニング」で「ミニ&マイクロLED、量子ドット、各種OLED技術の最新動向」の講師であるサークルクロスコーポレーション フェローアナリストの小野記久雄氏に聞いた。(聞き手は高市清治=日経クロステック)

サークルクロスコーポレーション フェローアナリストの小野記久雄氏
サークルクロスコーポレーション フェローアナリストの小野記久雄氏
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世界最大のテクノロジー見本市「CES 2023」(2023年1月5~8日、米国ラスベガス)では、ディスプレーにはどのような変化があったでしょうか。

小野氏:有機EL(OLED)ディスプレーのピーク輝度が向上しました。昨年(2022年)は最大1500nitsでしたが、今年(2023年)は最大2000nitsの製品も出展されました。

* nits 輝度の単位。1nitsは1cd(カンデラ)/m2。1m2の面積が一様に1cdの明るさで光る輝度を意味する。

 ディスプレーの画面は、輝度の高さがぱっと見の印象を美しく感じさせる最大の要素です。そういう意味では、「OLEDディスプレーがさらに美しくなった」という印象を与えたのではないでしょうか。

改めて「OLED」とは何でしょうか。

小野氏:電流を流すと自ら発光するデバイスです。色を持った素子自体が光るので、バックライトが要りません。その分、バックライトが必要な液晶ディスプレー(LCD)に比べて薄くできるし、消費電力も低減できます。一般的に「明るくてきれい」「薄くて軽い」「消費電力が低い」というのが、LCDに比べたときのメリットです。

 ただし、LCDの方が圧倒的に低コストです。ですからディスプレーのメーカーは、普及モデルはLCD、ハイエンドモデルはOLEDという差異化を図る方向にあります。実際、出荷台数ではテレビの9割がLCD。スマートフォンも6割がLCDです。

「高いけれどきれいなOLED」に対して「安くて省エネのLCD」というわけですね。

小野氏:単純化するとそうです。ただし、LCDの方が圧倒的に高精細です。「美しさ」というのは感覚的なもので比較が難しいので、私はOLEDの方が「ぱっと見はきれい」と表現しています。

 OLEDは発光素子を直接見るので、高輝度でコントラストが高く鮮やかに見えます。これに対してLCDは素子自体が光るのではなく、液晶で制御したLEDバックライトの光を間接的に見る仕組みです。間接的な分、鮮やかさで劣ってしまいます。

 特に黒い部分はOLEDが光っていないのに対してLCDはバックライトの光を遮断して無理やり黒を表現している状態です。少し光がもれるので、光っていないOLEDに比べてコントラストが弱くなります。輝度が高くてコントラストが強いOLEDの方が、高精細であるよりも「ぱっと見」で美しいというわけです。

 これはLCDの方が美しくないという意味ではありません。実際、販売店の店頭で比較でもしないと優劣を付けられないかもしれません。しかし、店頭で並べれば輝度とコントラストの違いは分かります。カタログ上も輝度の数値が高い方を消費者は選びます。消費者が選ぶのは、ぱっと見が美しかったり、スペックの数値が高かったりする製品なのです。

バックライトが不要なのにもかかわらず、OLEDの方が高いのはなぜでしょうか。

小野氏:LCDに比べて製造時の工数が多いからです。基板に金属配線などをパターニングするフォト露光のプロセスが、20回以上に及びます。ざっとLCDの3倍程度。LSI並みの工数です。

 実は3〜4年前はLCDと同程度の工数でした。韓国Samsung Display(サムスンディスプレイ)や韓国LG Display(LGディスプレイ)などのメーカーが、LCDと差異化を図るためどんどん高機能化を進めるので、工数も増えたのです。

 これには中国の新興メーカー対策という側面もあります。中国の新興メーカーもOLED市場に参入しています。太陽光発電パネルなどもそうでしたが、価格競争になると中国のメーカーには勝てません。そもそも国家の経済の仕組みが違いますから。そこで高性能化を図って製品の付加価値を高めると同時に、先行メーカーボーナスとも言える歩留まりの良さなどで製造コストに関して追い付かれないようにする考えなのです。