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 料理は開発と同じです。ごちそう(新商品)を作るという目的があり、食材(材料)を選んで調理(加工)します。調理方法(加工方法)はいろいろありますが、煮たり焼いたり炊いたり蒸したりと、つまり熱処理が大事です。火をしっかりと通さないといけないもの、逆にさっとゆでるだけでいいものなど、火加減で味に大きな差が出ます。焼き魚も、真っ黒にしたらただの炭。せっかくの鮮魚が台なしになってしまいます。カツオのたたきはその典型で、さっと炙(あぶ)る手際で味が決まってしまいます。

 調理の腕前というのは調味料や隠し味をうまく使う「さじ加減」もありますが、やはり決め手は「火加減」ではないでしょうか。

 その火加減について、昔の人はうまい(しゃれです)言い方をしたものです。お米を炊くときの「始めちょろちょろ中ぱっぱ赤子(あかご)泣くとも蓋取るな」は、火加減を的確に伝える名言です。最初の「ちょろちょろ」で弱火から始めて徐々に加熱させていくことが分かりますし、「中ぱっぱ」は一気に炊き上げることが分かります。そして「赤子泣くとも蓋取るな」は、途中で蓋を外して冷ましてはいけないという命令なのです。

出所:PIXTA
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 このような火加減やさじ加減といった技術伝承は、プロの世界では「徒弟制度」で成り立っているといっても過言ではありません。江戸の時代から一流を目指すプロの調理人は、料亭や茶屋(現代ならレストラン)などに就職するのではなく、そこにいる一流の調理人に弟子入りします。そして、その調理人の技をわが物にするために、それこそ盗むように必死で学ぶのです。

 対して、師匠である調理人は極めて冷徹です。時には弟子を厳しく叱り、時にはわざと無視をして、弟子の根性に火をつけます。そうすることによって弟子は熱くなり、貪欲に学ぶエネルギーが湧いてくるのです。誰もが熱くなるわけではありませんが、この湧き出るエネルギー、つまり熱量が大事です。

 開発を進めるときにも、エネルギーが必要です。その熱量の使い方には原理・原則があり、開発にも熱力学があると私は考えています。言うまでもなく開発の目的は新事業・新商品をつくることですが、その工程は材料をどのように加工・細工してまとめ上げるかということで、まさに調理です。そして、中でも最も大切なのは開発に取り組む者の人的熱量ではないかと、私はいつも感じているのです。分かりやすく言えば、開発者が熱いのか、それとも冷めているのか、ということ。もちろん開発テーマのポテンシャル(可能性や重要性)も重要ですが、やはり取り組む人の意欲が一番大事ではないかと思います。多くの場合、開発者が熱いときにはうまくいき、逆に冷めているなら成功することはありません。