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 物事には境界があります。境界とは「さかい目」のことで、「際」(きわ)とも言います。国と国のさかい目は「国境」と呼ばれ、複数の国に関わる事柄は「国際関係」と言います。国際関係が緊張に陥ると、あえて「水際外交」を展開することで緊張を高め、自国の利益のために駆け引きをする厄介な国もあるようです。「際」の意味には、境界だけではなく、厳しい局面に陥った時の「瀬戸際」や、最後の場面での「死に際」、何かが終わるときの「散り際」というように、物事の状態や場面の意味も含まれ、さかい目でドラマが生まれるときもあります。

 業種や業界のさかい目のことを「業際」と言います。今までは、多くの会社が業際を越えることはありませんでした。その業界内の常識や環境に従順でした。しかし、これだけ経営を取り巻く環境が激変すると、その業界の常識や環境に従うだけでは立ちゆかなくなりました。新天地を求めるかのように、異業種に進出する会社も増えてきたようです。

 もっとも、思い切って異業種に進出した会社のほとんどは、最初苦労します。しかし、業際を越えることで、そのメリットや価値観の違いが見えてくれば、開発を始めることができます。新天地の常識と環境に適応して、水を得た魚のように生き生きと躍動するのです。それは「獅子の子落とし」(獅子が我が子を谷に落として器量を試すこと)を自分自身で試すようなことですが、自らを苦難の環境に置くからこそ、新境地が開けてきます。

 物事が平和で穏やかに進んでいるときは、異分野などに進出しようとは考えないものです。ところが、その業界に変調を起こしたり緊張が走ったりすると、業際を越えてくる動きやチャレンジが活性化します。技術やノウハウを運用するときには「為替」のような現象も起こります。為替とは、遠く隔たる者同士の間に生じた金銭上の債権・債務の決済または資金移動を、現金の輸送によらずに行う仕組みのことです。これを、技術やノウハウに置き換えてうまく使うと、価値観を変えることになります。大きな利益につながることもあります。つまり、業種や業態の境界線を越えて技術やノウハウを移転しようとすると、おのずと為替レートを決める必要に迫られることになり、通常(業界内での)と異なる価格(価値観)で取引されるようになります。

 筆者は数十年前からこう言い続けてきました。「境界とその周辺にビジネスチャンスがある」と。それは筆者が最初に開発したガスの安全装置が成功した経験によるものです。自動車産業の技術をガス業界に横展開したのです。自動車部品メーカーが「脱・自動車」を模索する中、完成車(OEM)メーカーに供する部品を低コストで作る技術は、ガス業界では向かうところ敵なしとなりました。その後もこうした視点でみていると、あえて業際を越えたり、少しだけ境界線を行ったり来たりする会社は、異業種で大きな利益を上げていることが分かりました。

 その中で一番、効果的だった自動車関連の事例を紹介しましょう。もう30年以上も前の話ですが、ある自動車シートメーカーに、健康器具メーカーからの依頼が舞い込みました。マッサージチェアに使うシートを開発してほしいとのことでした。モーターでクランク機構を駆動して“もみもみ”するという、今では当たり前に聞こえるかもしれませんが、当時はとても斬新な製品でした。発注する側も受注する側も、これまで何の取引もありませんでした。しかし、マッサージチェアも自動車シートも「シート」ということは共通点。まさに異業種交流の成功例といえるでしょう。

出所:PIXTA
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