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【正解】(4)

【解説】

 SJ-MOSFETの耐圧を導出する。ここでは、アバランシェブレークダウン発生時のSJ-MOSFET内の電界分布を簡単化して考える(図2)。ゲートオフの状態でドレイン電圧$V_D$が0Vから上昇していくと、$V_D$の低い段階ではP-ドリフト領域とN-ドリフト領域の接合Jから空乏領域が横方向に広がる。このとき、

\[ N_DW_N=N_AW_P         (1) \]

に設定しておくと、ある$V_D$でドリフト全領域が空乏化し、空乏領域の横方向の広がりは止まる。そのときの空乏領域内の横方向($x$方向)電界分布-$E_x$はピーク-$E_{x‗max}$を持つ三角形状になる。$V_D$がさらに上昇すると、ドリフト領域内の縦方向($y$方向)電界-$E_y$が縦方向に沿って均一に成長し、その分布は長方形状になる。-$E_y$が臨界電界$E_{CU}$に達すると、アバランシェブレークダウンが発生する。$E_{CU}$は、インパクトイオン化係数$α$が以下の条件を満たすときに得られる。

図2 SJ-MOSFETセル内のアバランシェブレークダウン時の電界分布
図2 SJ-MOSFETセル内のアバランシェブレークダウン時の電界分布
(出所:パワーデバイス・イネーブリング協会)
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\begin{eqnarray*} ∫_{0}^{L_D}α \ dx=1       (2) \end{eqnarray*}

$α$にSi(シリコン)に関する以下のBaligaのインパクトイオン化係数$α_B$を用いる。

\[ α_B=3.507×10^{-35} E^7    (3) \]

ここで、$E$は電界であり、単位はV/cmである。$α_B$の単位はcm^{-1}である。$E$は電界の$x$成分と$y$成分の合成ベクトルの大きさであるが、ここでは、簡単化して$y$成分のみを考慮する。そうすると、以下の$E_{CU}$を得る。

\[ E_{CU}=8.359×10^4 L_D^{-1⁄7}  (4) \]

$E_{CU}$の単位はV/cm、$L_D$の単位はcmである。これから耐圧$BV$は以下になる。

\[ BV=E_{CU} L_D=8.359×10^4 L_D^{6⁄7} (5) \]

$BV$の単位はVである。$BV$は$L_D$に依存することが分かる。

 この$E_{CU}$を-$E_{x‗max}$と等しくすると、P-ドリフト領域とN-ドリフト領域の最適電荷密度$Q_{opt}$が式(1)を用いて以下のごとく得られる。

\[ Q_{opt}=ε_s E_{CU}=qN_D\cfrac{W_N}{2}=qN_A\cfrac{W_P}{2} (6) \]

ここで、$ε_s$はSiの誘電率($11.7×8.854×10^{-14}F/cm$)、$q$は電子電荷の大きさ($1.6×10^{-19} $C)である。このように$Q_{opt}$を決めても、この$N_D$と$N_A$で決まる横方向臨界電界$E_{C‗PN}$は$E_{CU}$より高いので、縦方向より先に横方向でアバランシェブレークダウンが発生することはない。最適ドーズ量$D_{opt}$は、式(4)と式(5)から$L_D$を消去して、$E_{CU}$の$BV$依存性を求め、その$E_{CU}$を式(6)に代入すると、以下のように求まる。

\[ D_{opt}=N_DW_N=N_AW_P=1.106×10^6\cfrac{ε_s}{q}BV^{-1⁄6} (7) \]

$D_{opt}$の単位はcm$^{-2}$、$N_D$と$N_A$の単位はcm$^{-3}$、$W_N$と$W_P$の単位はcmである。$BV$の増大に伴い、$D_{opt}$は低下する。

 理想特性オン抵抗を導出する。理想特性オン抵抗は、1セルの理想オン抵抗に1セル面積を乗じたものである。オン時の電流はP-ドリフト領域には流れず、N-ドリフト領域を流れるため、この領域のみを考慮した抵抗が1セルの理想オン抵抗$R_{on(ideal)}$になり、以下で表される。

\[ R_{on(ideal)}=ρ_{ND}\cfrac{L_D}{(W_N⁄2)Z}=\cfrac{1}{qμ_{ND}N_D}\cfrac{L_D}{(W_N⁄2)Z} (8) \]

ここで、$ρ_{ND}$はN-ドリフト領域の抵抗率、$μ_{ND}$はドリフト領域内の電子移動度、$Z$は図2の断面に垂直方向のセル幅である。式(8)に1セル面積$(W_{cell}⁄2)Z$を乗じたものが、以下の理想特性オン抵抗$R_{on,sp(ideal)}$になる。

\[ R_{on,sp(ideal)}=\cfrac{1}{qμ_{ND}N_D}\cfrac{L_D}{(W_N⁄2)Z}(\cfrac{W_{cell}}{2}Z)=\cfrac{L_D}{qμ_{ND}N_D}(\cfrac{W_N+W_P}{W_N})  (9) \]

式(9)に式(5)と式(7)を用いると、$R_{on,sp(ideal)}$は以下で表される。

\[ R_{on,sp(ideal)}=\cfrac{1.635×10^{-12}(W_N+W_P)BV^{4⁄3}}{ε_sμ_{ND}}  (10) \]

$W_N$=$W_P$の場合、式(10)は以下になる。

\[ R_{on,sp(ideal)}=\cfrac{3.273×10^{-12}W_NBV^{4⁄3}}{ε_sμ_{ND}}   (11) \]

この式から、$BV$一定{式(5)から$L_D$一定}の下で、$W_N$を小さくすると$R_{on,sp(ideal)}$は低下することが分かる。

 $W_N$=$W_P$の場合の$R_{on,sp(ideal)}$と$BV$のトレードオフ特性を図3に示す。ここでは、ドリフト領域が$N$型のみからなる従来型パワーMOSFETの理想特性(特性オン抵抗にドリフト領域のみの抵抗を考慮)も載せてある。この理想特性は、ゲートオフの状態で$V_D$印加時に空乏層が縦方向のみに広がっていく(1次元)構造の限界を意味する。SJ-MOSFETの$R_{on,sp(ideal)}$は、高耐圧領域では従来型パワーMOSFETのそれより低く、1次元構造の限界を超えている。しかしながら、低耐圧領域では、その特性は逆転する。これにより、SJ-MOSFETの特性と従来型MOSFETの特性に交点が生じる。この交点は、より小さな$W_N$に対し、より低い$BV$へシフトする。したがって、SJ-MOSFETを用いて低耐圧領域でもより低い特性オン抵抗を得るには、ドリフト幅をより小さく作る必要がある。

図3 特性オン抵抗と耐圧のトレードオフ特性
図3 特性オン抵抗と耐圧のトレードオフ特性
(出所:パワーデバイス・イネーブリング協会)
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 以上の点を踏まえて、各選択肢の正誤について以下に示す。

(1)$BV$一定{式(5)から$L_D$一定}の下で、$W_{cell}$を小さくすると$R_{on,sp(ideal)}$は低下し{式(10)}、誤っていないので不正解

(2)$BV$は$L_D$に依存し{式(5)}、誤っていないので不正解

(3)図3のSJ-MOSFETと従来型パワーMOSFETの特性から、誤っていないので不正解

(4)最適条件下では、$N_DW_N=N_AW_P${式(1)}が必要であり、誤っているので正解

 なお、参考文献については下記を参照されたい。

1)浅田邦博、パワーデバイス・イネーブリング協会(監修)、『はかる×わかる 半導体 パワーエレクトロニクス編』、日経BPコンサルティング、2019.
2)B. Jayant Baliga, Chapter7 in Advanced Power MOSFET Concepts, Springer, New York, 2010.

(解説:群馬大学 松田順一)