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 パワーステアリングの構造には、電動式、油圧式に加えて、これら両方の構造を採用する電動油圧式もある。電動油圧式は、モーターで油圧を作り、油圧式パワーステアリングを作動させる。必要な時だけモーターを駆動するため、常時エンジンで駆動している油圧ポンプのような駆動損失がない。さらに最も軸力が必要なアイドリング状態での据え切りを想定したポンプ性能に設定しても、エンジンの負担がないのも利点である。

 大型乗用車や大型SUV、バス、トラックなどは、依然として油圧式パワーステアリングを採用しているが、これらについてもいずれは電動化が進むものと思われる。その理由としては更なる効率化、軽量化以外にも電動化しなければ実現が難しい機能があるからだ。それはADAS(先進運転支援システム)への対応である。

ADASでもEPSが重要に

 最近、ADASの急速な普及が進んでいるが、これに関してもEPSの存在は欠かせない。自動ブレーキや先行車追従機能(ACC)など加減速に関わる装備以外の運転支援には、操舵系の制御が必要となるからである。

 車線逸脱警報など、警告音やステアリングの振動で警告するものにも、EPSが役に立っている。ECUがモーターを制御することでステアリング操作を実現する。車線維持支援システムなど、より積極的なステアリング制御も基本的には同様である。

 さらに進んだ操舵の制御方式として、ステア・バイ・ワイヤーの導入が進められている(図7)。これは運転者の操作を信号に置き換え、モーターのみで操舵するものである。現在、日産自動車が上級セダン「スカイライン」に搭載し自然な操舵感を実現している。これにはシステムエラーやシステムダウン時に、機械的にステアリングシャフトを連結させるクラッチ機構が備わっている。

図7 日産「スカイライン」に採用したステア・バイ・ワイヤー・システム
図7 日産「スカイライン」に採用したステア・バイ・ワイヤー・システム
ダブルピニオン式のラックを用い、ステアリング用ピニオンギアにもモーターを組み込み、ステアリングホイール側には舵角センサーを備えて、運転者の操作をECUによりモーターで再現する。路面からの衝撃や外乱などをステアリングホイールには伝えず、操舵の反力のみモーターで伝える。システムダウンの対策として各モーターそれぞれに専用ECUが与えられて、単独でも機能できるようになっている。さらにコラムシャフトとステアリング用ピニオン部の間にはクラッチがあり(写真にはない)、電源が遮断されると瞬時にクラッチが締結され、機械的にコラムシャフトとステアリング側ピニオンギアが連結されるようになっている。写真はKYBのシステム。
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 機構そのものはステアリングホイール側には反力を発生させるためにコラム式EPSと似た構造を搭載し、ラック側はデュアルピニオン式EPSをベースに、両側のピニオンギアをモーター駆動とすることで、バイワイヤー化を図っている。