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元デンソー、テクノサポートオーテス代表の岡本邦夫氏
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元デンソー、テクノサポートオーテス代表の岡本邦夫氏

 製品のラインアップが増える中、スピードが求められる上に、人手不足が続く…。設計者は忙しくなる一方だ。日本メーカーの設計の現場で今、何が起きているのか。「技術者塾」において「忙しい設計者のための「失敗しない設計」シリーズ」(2018年6月29日スタート)の講座を持つ岡本邦夫氏(テクノサポートオーテス代表、ワールドテック講師、愛知工科大学工学部非常勤講師)に聞いた。(聞き手は近岡 裕)

今、日本メーカーの設計現場が抱えている課題は何だと思いますか。

岡本氏:設計には大きく2種類あり、新しいものを創造する先端系と、既存製品の延長線上にあるリピート系があります。リピート系の設計はいわゆる「流用設計」で、新たな技術を投入するというよりも、デザイン(形状)などを造り込むことの方に力点を置く設計のことです。世界の市場ニーズの多様化に合わせた製品ラインアップの増加により、現在はリピート系の設計が設計現場の大半を占めています。こうした中で心配なのは、設計変更が増えていることです。

 原因は、設計の意図(技術的な意味)を知らずに図面を流用していることにあります。過去の図面を流用する場合、実績があるためか、あまり深く考えずに使い回すケースがあります。確かに効率的ですし、過去の製品と同じ使用環境ならそれほど問題は起きないでしょう。しかし、新たな製品では使用環境が異なることがあります。例えば、販売する国や地域が変わった場合です。こうした場合、本来であれば使用環境を想定し直すべきですが、それをせずに流用設計してしまうケースが多々あるのです。結果、試作段階において不具合や欠陥が発覚し、設計変更を余儀なくされる…。

 市場や顧客に渡る前なら構わないのではないかと思う人がいるかもしれません。しかし、設計変更はコストの増加に直に響きます。何より、今の設計者はとても忙しいのに、ムダな仕事が増えて、さらに忙しくなってしまいます。

どのような場合に設計変更が起きるのでしょうか。

岡本氏:先の通り使用環境が変化する場合や、材料の組み合わせが変わる場合は要注意です。最近は、コスト削減のためにモジュール化が進んでいます。モジュールはいろいろな部品を組み合わせて造る。それらを組み合わせた界面の所でトラブルが発生することが多いのです。例えば、異なる金属同士を接合する場合、その界面に電食(ガルバニック腐食)が発生します。最近は知らない人が少なくなってきましたが、まだまだ知らない設計者もいます。

 また、生産現場からはますます「造りやすい設計」を求められています。しかし、この「造りやすさ」が一体何なのかを知らないために、設計変更になるケースがあります。例えば、プレス加工で造る部品を設計する場合。プレス加工には造りやすい形状や使いやすい材料があります。ということは逆に、造りにくい形状や使いにくい材料があるということです。でも、この点をきちんと押さえていない設計者が実に多いのです。

 同じプレス加工でも、最近は深絞りの部品が増えています。複雑な形状を少ない工程で造れることから、外観デザイン性が高い上に低コスト化できるからです。この深絞りでは、材料組織の方向性や、金型と材料の間の摩擦、すべりが影響する他、潤滑油と材料の相性も関係してきます。これらを全て理解して設計しているかといえば、そうではありません。

設計者が加工技術をはじめ、全ての技術を習得するのは難しいのではないでしょうか。

岡本氏:必ずしも専門家並みに技術を身に付ける必要はありません。例えば、設計前に加工や生産技術などの専門家に相談して図面を作成することで、設計変更を回避する方法でも構いません。

 ところが、注意点やポイントを知らなければ、専門家に相談する必要性にすら気付かずに図面を作成することになります。そして、例えばプレス品であれば表面に傷や割れなどの不良が生じて設計変更を余儀なくされてから、慌てて専門家の元に走ることになるというわけです。

 最近、気になるのは自分で図面を起こさずに、部品メーカーに発注する側の対応です。