月500件の品質不具合が客先で発生している──。ある大手企業の実態だ。品質問題の頻発に悩む日本企業が一向に減らない。「問題は、品質不具合を未然に防止する手法を使いこなしていないことにある」と指摘するのが、デンソーの開発設計者出身で、トヨタグループの品質スペシャリスト「SQCアドバイザー」も務めた皆川一二氏だ。「日経 xTECHラーニング」において講座「品質完璧マスターシリーズ 未然防止編」の講師を務める同氏に、トヨタグループが実践してる「4大未然防止手法」について聞いた。(聞き手は近岡 裕)
検査不正や品質データ偽装が発覚して問題となるケースが日本で後を絶ちません。しかし、そうした企業でも「品質に問題はない」と発表するケースがほとんどです。ということは、コンプライアンス(法令順守)の問題であって、日本企業が造る製品の品質自体には問題はないと言えますか。
皆川氏:品質不具合が1カ月当たり500件も発生して悩んでいる企業があります。小さな企業の話ではありません。広く名を知られた大手企業の話です。しかも、この500件というのは客先トラブル、すなわち、顧客の下で発覚した品質不具合の数です。生産ラインで発生した不良品の数ではありません。社内で食い止められたら、まだマシかもしれません。しかし、現実には顧客に納品してしまったものなのです。
それは驚きです。問題になっているでしょうね。
皆川氏:大問題です。お客様に迷惑を掛けているのはもちろん問題ですが、マズイのはそれだけはありません。客先トラブルが500件/月ということは、社内における品質不具合の数は、そのざっと10倍はあると推測できるからです。生産工程のあちこちに、いろいろな品質不具合が隠れていることが容易に想像できます。
2017年秋から続く品質関連の不正ニュースには多くの日本人が慣れてしまい、「大した問題ではない」と感じている人も少なくないのではないでしょうか。そう思う拠り所は「結局は、品質が担保されているから」というものでしょう。しかし、実態は、品質不具合は一向に減っていないし、同じ、もしくは似たような品質トラブルが繰り返し発生して困っている日本企業がたくさんあるのです。
IoT(Internet of Things)や人工知能(AI)を活用する「第4次産業革命」時代に突入し、ハードウエア的にもソフトウエア的にも、より高機能で高性能な製品が求められているという事情は分かります。それでも品質不具合を社内で最小限に抑えるべきだし、品質不具合を抱えた製品をお客様に収めることは許されません。
私が知る限り、今の日本企業が品質不具合の問題とは無縁とは、とても言えません。