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優秀な工場マネージャーを育成するには

工場マネージャーとしての実力を高めるには、何を学ぶ必要があるのでしょうか。

古谷氏:まず、工場マネージャーは「経営者の一端」であることを忘れてはなりません。そのためには、財務諸表や原価管理などの経営数字をしっかりと理解できるようになることが重要です。自分はまだ経営者ではないと思う人もいるかもしれませんが、先ほど話した通り、工場マネージャーは、複数部門の利害が絡み合う状況の中で全体最適を実現することを求められるポジションです。

 全体最適とはどういうことかというと、まずは経営数字に貢献できることです。経営数字とは、財務三表と呼ばれる「損益計算書」と「貸借対照表」、そして「キャッシュフロー計算書」を指します。工場では日々の原価低減活動を通じ、利益に対する貢献が必要なことは十分すぎるほど理解しているでしょう。もう1つ、経営で重要な視点は「お金」です。資金をいかに適切に活用するかという点で、損益計算書だけではなく、貸借対照表やキャッシュフロー計算書を正しく理解できなければならないのです。

理解を深めるために、もう少し具体的な事例を教えてください。

古谷氏:例えば、工場の稼働率を高めるために、小ロット生産から大ロット生産に変更する事例を考えてみましょう。生産性や段取りなどを考えると、大ロット生産の方が都合が良い。しかし、大ロット生産を行うことで「生産完了と同時にじゃんじゃん売れていく」という恵まれた状態でなければ、仕掛かり品や完成品などの在庫が積み上がります。

 大ロット生産で原価低減し、利益に対して貢献したように見えます。しかし、在庫という「お金がものに置き換わった状態」を増やすことにより、貸借対照表やキャッシュフロー計算書の数字はどんどん悪化するのです。

 つまり、見かけ上は利益が良くなる活動をしてはいるものの、会社のお金は、ただ在庫に置き換わり、手元のお金が少なくなるという事態が生じるのです。これは経営の視点からは決して良い取り組みとは言えません。

工場マネージャーには経営数字をどのように良くするかという視点が大切なのですね。

古谷氏:その通りです。財務や原価といった経営数字を理解することで、ものづくりの本丸ともいえる調達・生産・出荷というサプライチェーンをどう構築すべきかを考えられるようになるのです。

 そしてもう1つ、工場マネージャーに必要な知識があります。それは、ものづくりのベースとなる考え方を、もう一度理解し直すことです。具体的には、例えば現場の5Sや品質の作り込みの概念を基本に立ち戻って考えると同時に、経営的な側面からの意味を理解し、自分が工場の管理者となったときに何をすべきなのか、その人なりに理解してもらうことです。