強い工場のマネージャーほど基本を重視
現場の5Sや品質造り込みとは、かなり基本的なところに戻るのですね。
古谷氏:それが重要なのです。工場マネージャーを育成する場面で5Sや品質作り込みといった話を持ち出すと、「そんなことは本で何度も読んだし、知っている」と言う人が必ず出てきます。ところが、そうした発言をする人がいる工場の現場で5Sが正しく実践されている姿を私は見たことがありません。理解が表層的なので、成果が出るまで徹底しきれていないと感じます。
逆に、ものづくりに対する理解の深い会社ほど、ものづくりの基本ともいえる5Sを最重要に位置付けていますし、議論も盛り上がります。実際、優秀な会社ほど、実践が不十分な面やできていない面を客観的に見ることができています。そうした会社では、基本の重要性を大前提に、「言うは易し行うは難し」の行うべきことを、どうやりきるかを追求して考えているのです。
基本ができているからこそ、強い工場を運営できるということですね。
古谷氏:私のかつての上司(その方は後に経済界の重鎮と言われる立場になりました)は、「当たり前のことをすれば、当たり前に成果が出る」と語っていました。これはつまり、成果が出ないのは、やるべき当たり前のことを徹底して実行できてないからだ、という意味です。
成果が出る経営や、成果が出るものづくりというのは、当たり前と考えることについて、正しく理解し、それを徹底して実行することに尽きるのです。
基礎が出来ると、その上に何を建てるかが重要になりますね。
古谷氏:工場マネージャーとなる人は、経営者や上司から「あなたは、この工場をどうしたいですか」と問われます。そのときには、工場に求められる役割を考える必要があります。
工場の役割は、QCDをベストにするといった漠然としたものではありません。例えば、「この工場は頻繁に納期変更が求められるので、生産計画の変更にフレキシブルに対応できるようにする」とか、「徹底した量産志向の生産ラインで、ムダを一切削ぎ落した工場にする」とかいったものです。工場の役割が異なると、工場でやるべきことや工場の目指す姿が大きく異なることは想像できるでしょう。
私は、これを「工場のあるべき姿」と呼んでいます。工場が求められる役割を踏まえた上で、工場マネージャーが描く工場のあるべき姿が具体的であるほど、組織への指示は具体的になり、組織は動きやすくなって、成果を実現できる可能性も高くなります。工場のあるべき姿を描くためには、「経営の視点を理解して全体最適を考えられること」と「ものづくりの基本を正しく理解して現場をどうすべきかを明確に語れること」が伴っていないといけないのです。
優秀な工場マネージャーになるということは、こうしたスキルを身に付けて、自分なりの意見を発信できるようになることだと私は考えています。
ジェムコ日本経営、本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)

その後、ジェムコ日本経営に入社。経営管理、人材育成から、品質改善支援、ものづくり革新支援など幅広い分野に従事し、海外での支援実績も多い。「地に足がついた活動」をモットーに、現場に密着した、きめ細かい実践指導は顧客から高い評価を得ている。2014年日経ものづくり誌連載の『儲かる工場にするための現場力再入門〜経営直結力』の著者、ものづくり経営やものづくりの基本に関するセミナーや、雑誌への関連記事の寄稿も多数。