全4965文字
PR

 開発・設計から生産まで、高品質のものづくりを実現するには品質管理手法(以下、品質手法)の習得・活用が欠かせない。だが、「何をどのように学べばよいかを知らない技術者が意外に多い」と指摘するのが、デンソーの開発・設計者出身で、トヨタグループの品質スペシャリスト「SQCアドバイザー」も務めた皆川一二氏だ。同氏に自身の経験を踏まえながら品質手法の学び方を聞いた。(聞き手は近岡 裕)

皆川一二氏
皆川一二氏
元デンソー、元トヨタグループSQCアドバイザ
[画像のクリックで拡大表示]

技術者として開発・設計に携わっていたときに、品質に関して失敗した経験はありますか。

皆川氏:あります。忘れられないのは、スズキ会長の鈴木修氏に怒られたことです。当時の鈴木会長の正確な役職は覚えていないのですが、専務以上だったと記憶しています。私はデンソーの開発・設計部門でグループリーダーを務めていました。

 スズキに納めるある部品の次年度の品質計画について、私は相談のために同社を訪問しました。そこに鈴木会長がいらしたのです。予定外でしたが、現場主義を貫く鈴木会長のことですから、次年度の品質と耳にして急きょ出席されたのでしょう。

 その席で、私は「来年度の品質目標は0.○○ppmにしたいのですが、よろしいでしょうか」と述べました。良品率を数値で示して顧客であるスズキの了解を得ようとしたのです。すると次の瞬間、バン!と大きな音がしました。驚いて見ると、鈴木会長が机をたたき、真っ赤な顔をして怒っているのです。

 「君は何を考えているんだ! 1つの製品の品質不具合でも、お客様にとっては100%なんだ。何ppmといった考えでは困る」

 鈴木会長のあまりの剣幕(けんまく)に、私は直立不動のまま「はい、分かりました」と言うので精いっぱいでした。

自動車部品は工業製品なのですから、良品率を100%にすることはできません。ppmオーダーで管理するのは間違っていないのではありませんか。

皆川氏:最終的にはそうです。しかし、鈴木会長が言いたかったのは「品質に対する考え方が間違っている」ということでしょう。品質不具合は基本的にゼロにすべく取り組まなければならない。結果的に何ppmに抑えるという考えをとるべし、と。最初から何ppmを許容するという考え方が許せなかったのでしょう。私の発言が、不良があっても仕方がないという口ぶりに聞こえたのかもしれません。

 いずれにせよ、この時の鈴木会長の言葉で、品質に対して自分自身に依然として甘さがあったことを思い知らされました。

スズキ会長の鈴木修氏(右)
スズキ会長の鈴木修氏(右)
「1つの製品の品質不具合でも、お客様にとっては100%だ」と叱られた。2016年10月のスズキとトヨタ自動車の提携会見時の写真。(出所:トヨタ自動車)
[画像のクリックで拡大表示]

「ばらつき」を知らなかった新人時代

意外です。トヨタグループでは新入社員の頃から品質に関する教育をきっちりと行っている印象があるからです。

皆川氏:それは現在の話です。私が入社したときは、まだ社内に品質手法の研修はほとんどありませんでした。今でこそ品質手法の講義や指導を行っていますが、私が新入社員のときはひどいものでした。なにしろ、「ばらつき」を知らなかったのですから。

 当時は図面を描いたら、それと同じものが出来上がってくると思っていました。従って、試作品も2~3個しか作らなかった。それで耐久試験(現在の信頼性試験)を実施し、その結果が良ければ量産工程に移行できると考えていたのです。

それで量産したのですか?

皆川氏:まさか、そんなわけにはいきません。案の定、その後のデザインレビュー(DR)と品質保証会議の場で出席者から詰問されました。

「君は耐久試験に何個かけたのかね?」
「2個です」
「えっ?」
「ばらつきはどれくらい出たの?」
「2個しかないのでばらつきは……」
「工程能力は?」
「……。分かりません」

 ボロボロです。とても恥ずかしい思いをしました。わずか2個とはいえ自分では一生懸命に設計・試作に取り組んだのですが……。これが、製造業における品質に対する厳しさを初めて体感した瞬間でした。上司も先輩も教えてくれませんでした。今から振りかえると、教育の一環としてあえて新入社員である私に失敗を経験させ、品質手法を勉強するモチベーションを高めようとしたのかもしれません。