公開セミナーを行うといろいろな質問を受けます。受講者は業種も経験年数もさまざまなので、思ってもみなかった切り口からの質問があります。私にとっても大きな気づきがあり、大変勉強になります。図面の描き方(製図)セミナーで、昨年末から同じ質問をいくつか受けたので、今回はこれを紹介したいと思います。
図面では形は第三角法で表し、寸法や表面粗さといった情報は数値や記号で表します。後者の寸法表示についての質問をいくつか受けたのです。それは、左右方向は右と左のどちらを基準にすればよいのか、同じように上下方向や前後方向の基準はどのように考えればよいのかというものでした。これに対して、「普段はどのように基準を定めていますか?」と聞いてみると、「設計の案件ごとに異なります」という答えでした。計画図を元に部品図と組み立て図を製図する設計アシスタントの場合では、計画図を作図する設計者ごとに基準が異なるとのことです。
マンパワーを集中させるためには
私は基準については入社早々に徹底的に教え込まれた世代なので、こうした質問自体に少々戸惑ってしまうのですが、基準面をどこに取るのかは設計思想の問題であり、第三者が決めるべきことではありません。これと同じように設備を前にしたときに、ワーク(被加工物)を左から右に流すのか、または右から左に流すのかも、設計思想の問題です。このような基準は、社内で統一することが必須です。設計者ごとに異なったり、同じ設計者でも案件ごとに異なったりするといった状況は弊害しか生みません。
統一できていないと、図面を描くたびに基準を確認しなければならないというムダが発生するだけではなく、本質的な問題として「図面の流用」が難しくなります。図面の流用とは、以前の図面をそっくりそのまま再使用することです。再使用の利点は、既に加工した実績がある図面を使うので、品質が保証されていること。加えて、加工コストや納期の実績も明らかになっていること。何より最大のメリットは、流用分の図面を描く必要がなくなるので、本来新規に取り組む設計箇所にマンパワーを集中投入できることです。
ところが、基準の異なる図面を流用すると公差にしわ寄せが生じ、必要な精度を得られなかったり、新規の図面に過剰な公差指示を行う手間が生じたりしてしまうのです。従って、基準を合わせておくことが必要です。
昭和の時代には「多くの図面を」素早く描くことが設計者の実力の1つと考えられていました。しかし、今はまったく逆です。できる限り実績のある図面を流用し、新規の開発箇所にマンパワーを集中させることが腕の見せ所なのです。すなわち、「新たに描く図面枚数をいかに少なくできるか」が大切な設計スキルの1つとなります。