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 ここ2カ月ほど本の執筆に追われていた。競合企業を打ち負かせる「世界No.1製品」を創り、そして造る開発設計プロセスについて、私の持つ知識と経験、そしてノウハウを余すところなく記述したつもりだ。このコラムと同じく、日本企業の設計レベルの向上に少しでも貢献したいというのが執筆の動機である。コラムとは違い、初めから学べるように体系的に解説した。

 日本の製造業の代表格である自動車業界は100年に1度、いや130年に1度の変革期に突入したといわれている。事実、IoT(Internet of Things)や人工知能(AI)、第5世代移動通信システム(5G)と新技術が登場し、ものづくりの世界を劇的に変えつつある。自動車メーカーはCASE(ケース)、すなわち「コネクテッド(Connected)」、「自動運転(Autonomous)」、「シェアリング(Sharing)」、「電動化(Electric)」の開発を加速。自社や系列企業との連携にとどまらず、テックカンパニーと呼ばれる国内外のIT企業などの異業種とも積極的に連携を開始している。

 製造業の技術者の中には、畑違いの新技術が続々と登場して不安や焦りを感じている人もいるだろう。だが、ものづくりの本質を押さえてさえいれば、決して慌てふためくことはない。どのような技術が登場しても、製造業の基本に変わりはないからだ。その基本とは、競合企業に対して品質やコストの面で「優位性」を確保し、顧客の「信頼」を保ち続けることである。

 そして、この普遍的な課題の要となるのが「設計」だ。「設計段階で品質とコストの80%が決まる」という現実を踏まえ、それにふさわしい取り組みを実践することが不可欠となる。その設計段階の取り組みは、大きく「先行開発」と「量産設計」の2つの取り組みに分けられる。詳しくは書籍に譲るが、大切なのは、それぞれでしかるべき取り組みを「やりきる」ことだ。

デンソーが開発した自動車部品
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デンソーが開発した自動車部品
QCDの少なくとも1つ以上で世界一に設定した開発設計が求められる。(写真:日経 xTECH)

設計力には普遍的な取り組みがある

 私は学生に設計と設計力について話す機会がある。彼らに「設計とは」と問い掛けると、多くの場合、「CADだ」と返ってくる。3D-CADで図面を描くことが設計と思っているようだ。しかし、これは無理もない。一般に、学生は企業で行われている設計について学ぶ機会がないからだ。

 それでも、中には開発設計には年単位の時間を要することを知っている学生もいる。しかし、「その長い間に行っていることは?」と聞いても、答えが返ってきたことはない。そこで、私が設計段階には多くのプロセスがあり、多くの知見が必要であることをさまざまな事例を交えながら紹介する。すると、ようやく学生は「設計とはCAD以外にも数多くの業務があり、大変な仕事なのだ」と理解してくれる。

 では、企業の設計者は、設計をどのように捉えているのだろうか。仕事柄、多くの設計者に問い掛ける機会がある。その回答から、私にはその企業の設計力のレベルが手に取るように分かる。

 例えば、「CAD を扱えば設計だと思う」という回答からは、「とにかく図面を描けば部品の加工ができると考えている」ということが分かる。「CADの前に座るまでに技術計算や技術検討は行う」という回答からは、「余裕度や安全率など定量的な検討がしっかりなされていない」ということが伝わってくる。「管理職が節目で進捗と内容について議論や決裁する仕組みが設定されている」という回答からは、「しかし、品質不具合の未然防止が思ったほどできない」といった課題が見えくる。

このように、企業や職場によって設計に対する理解が大きく異なっており、それ故に、さまざまな課題を抱えている。なぜ、設計の理解や取り組みが異なるのか。もちろん、職場の歴史や企業規模の違いなどが影響している。また、設計の本質の理解が不足していたり、理解していても実行する仕組みがなかったり、仕組みがあっても形骸化していたりするなど、さまざまな背景がある。

 私から見ると、設計に多くの課題があるにもかかわらず、「設計のあるべき姿(設計力)」を普遍的な内容として取り上げている企業や職場はほとんどない。「現場力」という呼び方で、カイゼン(改善)が普遍的な取り組みとして定着している生産現場とは対照的だ。

 つまり、現場力と比べて「設計力」という言葉とその内容は、まだまだ世の中に十分に普及したとは言いがたい。これはすなわち、「設計段階の取り組みのあるべき姿」が日本の製造業の中で共有されていないということだ。逆に言えば、だからこそ、企業や職場が違えば設計段階のあるべき姿の考え方が異なっているというわけである。

 現場力と同様に、設計力にも普遍的な取り組みがある。それを共有化できれば、設計段階の取り組みレベルは確実に向上する。

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