「設計力」のセミナーを行うと、受講者からよくこう質問される。「設計段階の取り組みが品質・コストの80%を決める」と私が説明すると、「90でも70でもなく、なぜ80%なのですか」と。私の答えはこうだ。「『設計段階の取り組みが支配的である』ことを意識して欲しいという思いを、この数値に託している」。
今回は、設計段階の影響力について取り上げたい。
ものづくりとは、設計目標値を「もの」という形にするための方法や手順、構造、材質などを定量的に「見える化」した「図面」を、「現場力」によって100%ものへと置き換えることだ。ここで、図面の情報が正しければ問題は起こらない。しかし、受け取った情報に誤りがあると不具合が生じる。誤った情報に基づいて加工されたものが出来てしまう。
例えば、操作スイッチの接点の耐久回数について「1万回以上」という設計目標値を設定したとする。すると、接点を表す図面には、1万回使っても壊れない情報を示さなければならない。ところが、1000回で導通不良となる接点材料や接点形状を誤って図面に入れると、出来たものは1000回で導通不具合を起こすことになる。
「前工程は神様、後工程はお客様」という言葉がある。この言葉の通りに、前工程から提供された(1000回で不具合を起こす)図面を信じて加工するすると、1000回で壊れることになる。しかし、図面通りに造っているのだから、現場力では修正できない。このように、「Q(品質)」には図面の出来栄え、つまり設計段階の取り組みが大きく影響する。
では、設計段階が「C(原価)」へ与える影響はどうだろうか。一般的な原価構成は次の通りだ。
- 直接原価:設備償却費と金型費、材料費、購入部品費、組み付け加工費の合計
- 総原価:直接原価に管理間接費を載せたもの
- 管理間接費:製造間接費と販売管理費の合計
- 製造間接費:製造と設計の管理部門の費用
この原価構成は、図面(設計段階の取り組み)が原価を構成する要素に直接的、間接的に関与することを示している。具体的には次の通りだ。
- [1]図面に示された部品の加工やサブアセンブリー(sub-assembly;途中組み付け)、アセンブリー(assembly;完成組み付け)の作業のため、設備が決まる。
- [2]図面に示された部品を造るため、金型が決まる。
- [3]図面には、必要な材料が示される。
- [4]図面には、購入する部品が示される。
- [5]図面に示された組み付け要領に従い、生産ラインが整備されて、生産作業が行われる。
- [6]図面を作成する設計部署の工数は、管理間接費に含まれる。
このように、図面があるから、設備に関係する仕事があり、金型の仕事がある。図面があるから、材料を発注でき、部品の購入が可能となる。図面があるから、生産現場の作業が生まれる。
製造業の基本は、関係者や関係部署が図面という柱の周りで仕事をすることだ。図面があるから、毎日仕事があるのだ。そして、その図面は設計段階で創られる。各部署はそれぞれの立場で次の工程に影響を与えるが、設計の影響はとりわけ大きい。
以上、設計段階の影響力をまとめるとこうなる。
- ①品質とコストの目標値は設計段階で決定される。
- ②その目標値を達成する方法や構造、材質などを定量的に表したものが図面である。
- ③その図面があるから、生産技術や生産現場、品質などの部署の仕事がある。
④例えば、生産技術は、目標コストを1000円とすると、その中で割り振られた組み付け費や設備費などを満足するよう知恵を出す。私が言う80%の意味がここにある。支配的と言っても過言ではない。