新型コロナウイルスの感染拡大が続く。報道から、世界でワクチンの開発が急ピッチで進むが、臨床試験など時間を要しそうだ。
ワクチンの開発は、ウイルスという自然が相手だ。ものづくりの設計も自然が相手である。品質不具合を出さない設計の基本は、自然(市場環境)の「ストレス」を知り、ものがストレスに負けない強さを持つように処置をすることだ(以下、ものの持つ強さを「ストレングス」と呼ぶ)。ワクチンの開発はざっくりと、ウイルスというストレスを見極め、そのストレスに勝るストレングスを持つワクチンを開発することだろう。今回はストレスとストレングスを取り上げる。
設計要因の品質不具合を起こさないためには、少なくとも「ストレス<ストレングス」が成り立つ設計をしなければならない。取り組みに当たり、意識してほしい2つのポイントを取り上げる。
顧客にストレス低減の提案を行うべし
まず1つ目のポイント。「ストレス<ストレングス」の取り組みは、[1]ストレスが小さくなる取り組み、[2]ストレングスを大きくする活動、[3]それぞれ共に処置するという3つの選択肢がある。
ところが、部品メーカーなどのサプライヤーは、ストレスは納入先が決めるものと思い込み、ストレングスを高めることのみに四苦八苦しがちだ。しかし、あまりにも視野が狭すぎる。そうではなく、サプライヤーは一度立ち止まり、ストレスを下げる方法はないものかと考えることが大切だ。サプライヤーも納入先の立場に立って考えること。これを怠ってはならない。
例えば、自動車部品では、搭載場所を少し動かすことで温度ストレスが和らぐことがある。取り付け部に簡単なダンパーを追加するだけで、振動環境が穏やかになる場合もある。このような提案を持っていなくとも、相談することは可能だ。納入先の技術者は、サプライヤーの設計者(技術者)からの相談を真摯に受け取るはずだ。それが技術者魂というものだ。
もちろん、サプライヤーは、納入先からのストレスの要求が厳しくとも、一旦納得すれば全力でストレングスの達成に取り組まねばならない。サプライヤーからのストレス低減の提案は、納入先の気づきを促し、双方の技術の善循環的スパイラルアップをもたらす。サプライヤーは納入先の立場に立って、ストレスを捉えねばならないのだ。
自社の設計標準で対応できる場合
続いて、2つ目のポイント。納入先とストレスを共有できれば、ストレスに勝るストレングスを是が非でも設計せねばならないが、その時に大切なことがある。それは、(1)自部署に蓄積してきた設計標準(技術)で対応できるのか、それとも(2)自部署に蓄積してきた設計標準でカバーできないほど変化・変更の度合いが大きいものかを判断することだ。このどちらかで設計対応が大きく異なる。
まず、(1)の自部署に蓄積してきた設計標準で対応できる場合。形状を変えて強度を高めることになったとする。そのときは、以下をこなせばよい。
- 市場のストレスに耐える材料選定や形状の検討
- それらを踏まえた強度の定量化
- 試作品の手配
- 試作品の評価
- 耐久評価
簡単とは言わないが、設計標準にある設計手順や設計手法に基づき、粛々と取り組めばよい。ストレスに対し、ストレングスの実力に余裕が十分に見込める場合は、机上検討だけでOKと判断できる場合もある。耐久評価も市場のストレスと相関があると標準化された条件に則(のっと)って試験し、評価結果の良否判断も基準に従う。