日立製作所が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の緊急事態宣言解除後の新常態(ニューノーマル)を見据え、在宅勤務を踏まえた働き方改革を進める。これからは在宅勤務ありきで開発設計に取り組まねばならない。
前回(第68回)、在宅勤務で「これでよいだろう」の罠(わな)に陥り、「やったつもり」になってはいけない6つの設計業務を取り上げた。新規性の高い商品仕様の把握や決裁会議などであった。今回は、在宅勤務でも設計者の「あなた」は、社内の関係者、特に生産現場の仲間から「一緒に仕事をしよう」と思ってもらえているかどうかについて取り上げる。
図面は、生産現場の班長やリーダーの知見や知恵が入ると質が上がることは既に触れた(第1回)。「このような形状にすると組み付けミスがなくなる」「加工しやすくなる」「自動組み付けが可能となる」などだ。
「ゲンバを知らない若造め」
知恵をもらうには、生産現場の班長とコミュニケーションをとり、心を通わせねばならない。入社間もない頃の筆者の経験だ。描いた図面について意見を聞こうと生産現場に行った。そばへ行って声を掛けると、班長はぱっと横を向いて他の人と話を始め、いくら待ってもこちらを向いてくれない。生産現場のことを知らない若造だと見抜かれ、設計者としては全く認めてもらえなかったのだ。なかなかつらいものがあったが、めげずに足しげく生産現場に通って勉強した。
そうして2~3年がたった頃、ようやく「ウエルカム、待っていたよ」となった。「ここが問題だ。設計変更すると不良が減る」「この寸法公差を5μm広げてほしい。抜き取り検査を減らせる」など、要望やアドバイスが途切れない。なかなか帰れなくなったほどだ。図面の質が上がったのは言うまでもない。
当時、生産現場の班長は職人気質の人が多かったように思う。直接会って話し合うことで気心が知れ、コミュニケーションが円滑になった。「一緒に頑張ろう」との思いが醸成された。今も、設計者であるあなたと生産現場の班長のありようは同じであろう。
筆者の経験を「コンカレント活動」に当てはめると、「在宅勤務の課題」が見えてくる。開発設計におけるコンカレント活動とは、開発設計のスタート段階から、設計や品質、生産技術、生産、企画、調達などの関係者が足並みをそろえ、総智・総力を注いで「まっとうな図面」を描く取り組みだ。関係者全員が力を合わせれば、品質不具合を出さず、かつ利益を生む図面を描ける。
こういうことだ。コンカレント活動の仕組みさえあれば「まっとうな図面」が描けるというのは大きな錯覚である。その仕組みを通して、「設計者のあなたと一緒に仕事をしよう」と関係者全員から思ってもらえることが大切なのだ。
コンカレント活動では、関係者全員のベクトルが合わねばならない。その役割を担うのは、誰あろう、在宅勤務のあなただ。なぜあなたがこの役割(リーダー)を担うのか。開発設計段階では設計者が対象製品を最もよく知っており、おのずと品質やコストに責任を持たねばならならない立ち位置にあるからだ。
あなたは在宅勤務でも、リーダーとして関係者の思いを一つにしなければならない。中でも、生産現場の班長との意思疎通は大切だ。在宅勤務を言い訳に、リーダーとしての役割をおろそかにしてはならない。
だが、勘違いしてはならないことがある。生産現場の班長やリーダーとの思いを一つにしなければならない、心が通うことが大切だと強調したが、それは、なれ合いになってもよいということではない。逆に、「適度な緊張感」がなければならない。