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 富士通がオフィス出勤率を最大25%に抑えるなど、出社を前提とした働き方の見直しが進んでいる。今や開発設計も在宅勤務ありきで取り組まねばならない。だが、事務などの作業に比べてかなり課題が多いことは否めない。

 在宅勤務で開発設計を行うときに陥りやすい罠(わな)を、本コラムでは2回にわたって取り上げてきた。設計者が「やったつもり」になってはいけない6つの設計業務と、「生産現場から足が遠のいてはいけない」であった。今回は、「背中を見て育つことをおろそかにしてはならない」という教訓を取り上げたい。

 トヨタ自動車とSUBARUに搭載された燃料ポンプの大規模なリコールが起こった。国土交通省への自動車のリコールの届け出件数は、ここ十数年100~200件/年で推移している。一方で、電動化や自動運転化のため、新規性の高い高機能なシステムや製品が次々投入されている。だが、在宅勤務が進もうとリコール件数が増えてはならないし、ものづくりの力を高めこそすれ、落とすことがあってはならない。

 自動車部品は、いわゆる「擦り合わせ型」のものづくりだ。在宅勤務だけで設計業務を完結させることは容易ではない。ましてや、擦り合わせ型のものづくりにふさわしい設計者を育てるのには困難が伴う。

 2020年も7月に入った。例年なら新入社員が職場へ配属されるころだ。だが、研修は在宅で行われているとも聞く。弊社も技術研修を少しだが請け負っている。技術系社員の育成は、最初の3年間が肝心だ。振り返ると、筆者も職場に配属されてからの3年間で設計者としての「心構え」が芽生えた。

(出所:日経クロステック)
(出所:日経クロステック)
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「とても先輩のようにはなれない……」

 配属されて設計職場の机に座ったものの、筆者は指示された内容を理解することすらままならなかった。周りは「一を聞いて十を知る」ような、信じられないほど仕事ができる先輩ばかり。彼らは実験で得られた玉石混交のデータを理路整然と「見える化」し、素早く報告書にまとめている。そして、それを自信にみなぎった顔で課長に報告して承認を得ているのだ。

 なぜそんなに素晴らしい報告書があっという間に書けるのかと驚愕(きょうがく)し、筆者は「とても先輩のようにはなれない」と悩んだ。当時は、MUTOHホールディングスの設計製図機械「ドラフター」がそれぞれの設計者に併設されていた。時にはたばこをくわえながら図番に向かい、自信に満ちた姿でドラフターを動かしている先輩たちの姿は、まさにプロと思えた。

 筆者は、毎日ドラフターの前をちらりと見ながら通った。1日たつごとに描かれたものが次第に姿を現してきた。「なんと美しい図面なんだ」と羨んだ。自分にはとても描けない。それでも、「頑張るぞ」と心に誓ったものだ。

 しかし、分からないことだらけだった。そこで先輩に「ここは設計基準を見ても分からないのですが……」と問い掛けた。すると先輩は忙しい手を止め、丁寧に教えてくれた。周りはそのような人ばかりであった。

 当時の技術部には、確か6つの設計課があったと思う。それぞれの課長は筆者のような新入社員には雲の上の存在で、まさに「大課長」という雰囲気を漂わせていた。口には出さないが、担当する技術分野のことは任せておけという感じがひしひしと伝わってきた。声を荒らげることはめったになかった。それよりも、「責任はとるから、精いっぱいやれ」という雰囲気だった。

 そうした環境でももちろん、簡単には解決しない技術課題はたくさんあった。そんなときは、課長が床に座り、担当者と一緒に考えこんでいた姿を思い出す。夜遅くなっても「まあ、これくらいでよいだろう」と妥協することはなかった。あくまでも理屈で納得がいくまで諦めなかった。全員が技術者として謙虚であったと思う。