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 「生産性」が低いのではないか──。気になる新聞記事を目にした。在宅勤務の生産性が落ちているのではないかという報道があったのだ。実は生産性は定義が難しく、安易に議論できない。そこで、ここではいわゆる「効率」が高いか低いかに絞り、今回のテーマとして取り上げたい。

 言うまでもないが、在宅勤務の効率は「質」と相反関係では許されず、両立させることが大切だ。経験的に、仕事の質が高いと効率も良い。質を高めるには「在宅勤務の課題」を乗り越えねばならない。在宅勤務の開発設計の課題は本コラムの第68回などで取り上げた。課題を、開発設計の仕組みや管理に見いだしたのだ。

 その「仕組みや管理」の課題を縦串と捉え、今回は横串となる「知識・知見」が持つ課題を取り上げる。必要な知識・知見が職場にある場合とない場合、それぞれのケースについて順に述べよう。

ベンチマークを在宅勤務で行う条件

 当社が行っている事業にベンチマークがある。ベンチマークは、開発設計プロセスにおいて設計目標値を設定するステップで必要な手法だ。顧客企業から市場にある製品の構造やコストの調査を依頼される。

 最近の傾向は、自動車の電動化を踏まえたインバーターやモーターの調査だ。インバーターは、パワーモジュールやコントロールユニットなどのエレキシステムと、冷却のメカ構造などから成る。メカからIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)、他の電子部品、電子回路、半導体、生産工程や設備の知識・知見までを総動員して対応せねばならない。調査結果の質は、知識・知見の有無とその深さで決まる。調査チームの豊富な経験が、推定コストの確からしさを高める。

 このように、ベンチマークは調査する担当メンバーが持つ知識・知見を生かす仕事だ。在宅勤務でかなりのところまで対応が可能だ。当社では新型コロナ禍前から、在宅者がチームを組んで対応してきた。製品や部品の現物を確認する場合のみ出社。途中経過の報告や議論、最終報告までもオンライン会議で対応している。

 ベンチマークは一例だが、既存の知識・知見で乗り切れる開発設計業務は、在宅勤務で質を確保できる可能性が高い。在宅で集中して取り組めば、出社勤務よりも効率が上がるケースは少なくないだろう。

技術のブレークスルーを実現する条件

 次は、新たな知識・知見を見いださねばならない開発設計の事例だ。このケースでは、在宅と出社勤務の組み合わせが効率と質を上げる。当社は製品の開発も行う。顧客企業からの依頼で先行開発段階までを手掛けている。第7回などで取り上げた通り、競合に勝つ設計目標値の設定とネック技術のめどを付けることなどが、先行開発段階の取り組みとなる。

* ネック技術 職場に備わっている基盤技術だけでは対応できない技術課題のこと。