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 米カリフォルニア州の知事が2020年9月23日、2035年までに同州で販売する全ての新車をZEV(Zero Emission Vehicle:無公害車)にすることを義務付ける知事命令に署名した。知事の命令を受け、同州大気資源局(CARB)が具体的な規制づくりに着手する。

 英国やフランスは既に2040年以降にガソリンエンジン車の新規販売を禁止すると表明しているが、今回の規制強化への動きから、クルマからガソリンエンジンがなくなる日がもうそこに来ているのだと驚いた。こうした思いを抱いたのは筆者だけではないだろう。なぜ、この動きからガソリンエンジン車がなくなると筆者が心底思ったのか、理由は2つある。

 1つめの理由は、今後のCARBの規制強化への動きが米国の他の49州はもちろん、欧州や日本などに大きな影響を与える可能性があるからだ。というのも、CARBの排出ガス規制は、1990年代に世界に先駆けて自動車メーカーに一定の割合でZEVの販売を義務付ける規制(ZEV規制)を導入するなど、世界の排出ガス規制をリードしてきたからである。

 2つ目の理由は、新車の販売をZEVのみに限定したからだ。新車は電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)だけしか販売できなくなる。新車のガソリンエンジン車はもちろん、ハイブリッド車(HEV)の販売も、最長でも2035年までということだ。

 2035年は遠い先の話ではない。自動車の開発期間という時間尺度からすると、目前のことと言ってもよいぐらいだ。カリフォルニア州仕様車、すなわちZEVの開発には、遅くとも2020年代半ばには着手しなければならないだろう。しかも、同州で販売する全ての車種についてなのである。ということは、もっと早くスタートしなければならない可能性もある。

 カリフォルニア州の新車市場は全米の1割強を占めている上に、日本メーカーのシェアが半分近くを占める重要な市場だ。多くの自動車メーカーにとって、捨てる選択肢などあり得ない。だからといって、同州向けだけにZEVを開発し、他の地域や国別にガソリン併用の電動車を開発するのは、多くの自動車メーカーにとって現実問題としては荷が重いのではないだろうか。カリフォルニア州の動きは、一気にEVやFCVへの流れを加速する可能性を秘めているという見方もできる。

法規制が電子制御燃料噴射システムを生んだ

 もちろん、そう簡単にCARBがZEV規制を制定できるかどうかは分からない。これまでは排出ガス規制を制定する当局と自動車メーカーがせめぎ合って、妥協点を見いだしてきた。今回も自動車メーカーは電池の寿命やコストなどの現実的な課題を取り上げてCARBとの交渉に当たるのではないか。一方で、地球温暖化など環境問題が大きくクローズアップされてきている昨今、環境優先の判断でZEVのみの規制が決まる可能性もあるだろう。いずれにせよ、EVやFCVの開発がますます加速されるのは間違いない。メーカーはEVやFCVの技術課題、すなわち電池やコストの問題点を乗り越えねばならない。

 技術者にとって大切な視点は、法規制というニーズが技術を大きく進化させる原動力となり得ることだ。今から半世紀以上前のカリフォルニア州にタイムスリップすると、そこには今回の動きを彷彿(ほうふつ)とさせる状況がある。