2020年10月下旬、ポートメッセなごや(名古屋市)で自動車技術に関する展示会「オートモーティブワールド 2020」を見学した。検温や手の消毒、マスク着用と新型コロナウイルス感染症対策が厳重だったが、来場者は多かった。日本のボッシュ社長とコンチネンタル・ジャパン代表の講演会には数百人が参加していたが、私もその1人だった。どちらもCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)について部品メーカーの立場から取り上げていたが、内容は周知のことが多く驚きはなかった。
だが、プレゼンテーション(以下、プレゼン)は印象に残った。伝える工夫がなされていた。不特定多数の受講者に分かりやすく伝えるための工夫が見られた。資料がビジュアル的に作成されており、動画も組み合わせて視覚に十二分に訴えるものだった。
話し方も印象に残った。日本のボッシュ社長は原稿の読み上げに徹し、コンチネンタル・ジャパン社長は手元に原稿はないようだった。両氏とも声に勢いがあり、自分の言葉として、よどみなく話した。読み上げと言ったが、伝わるものがあった。練習の上で臨んだのだろうと感じた。
プレゼンはいつも一発勝負だと筆者は思う。講演者と聴講者は一期一会。その場の印象がずっと残る。今回の展示会の講演で残ったのは、この企業はこうだというイメージだ。だから、プレゼンにはしっかりと取り組みたいし、なおざりにしてはいけない。
設計業務はプレゼンの連続
こうした話を取り上げたのは、設計の業務がプレゼンの連続だからだ。プレゼンがうまくいったら承認を得やすくなるであろうし、評価も良くなる。身近な例では、日々の「報・連・相(報告・連絡・相談)」もプレゼンだ。
設計プロセスでは、スタートから図面を次の工程に送るまでに、実に多くのプレゼン(報告)の場がある。その間には、顧客への報告も多い。筆者の経験を振り返っても、社内・外への報告は途切れなかった。1つひとつの報告に何とか対処し、気が付けば出図の段階になっていた。
こうして振り返ると、報告をやり遂げることが、すなわちレベルの高い開発設計を成し遂げることと言えそうだ。
実は、報告の場そのものが、開発設計を高いレベルで滞りなく進める重要な仕組みである。その仕組みが設計プロセスに組み込まれている。第26回のコラムで取り上げたが、設計プロセスは、[1]基本プロセス(メインプロセス)と[2]サポートプロセス、[3]マネジメントプロセスから成る。
このうち、[3]のマネジメントプロセスが、まさに報告の場だ。報告の場は、大きな節目だけではなく、要素作業ごとにも設定される。具体的には、検討・議論のデザインレビュー(DR)と審議・決裁の会議(決裁会議)の組み合わせだ。