「デザインレビュー(DR)がうまくいきません」──。こう相談を受けることが依然として多い。問題点を見いだす最適な方法は現場を見ることだ。そこで「御社のDRを見学できますか」と言ってみたが、やはり無理であった。「DRで扱う内容は部外者には開示できません」と。もっともなことだ。
代わりにその企業に研修を実施した。DRについて講義した後、それを踏まえたグループ討議と発表を行う。講師の思いまでしっかりと伝えるために講義は“リアル開催”、すなわち対面形式とした。その分、新型コロナウイルス感染症対策には気を遣った。受講者は全員マスク必着とし、座席の間隔は十分に空けた。グループ討議は別の機会に社内で実施してもらうこととし、結果発表はWebで行うという形で進めた。この進め方で特に問題は生じていない。
ただし、グループ討議は思惑通りにはいかなかった。講義を踏まえた上で、「職場のDRの問題点について議論してください」と伝えていた。議論は、DRについての問題点→原因→対策の手順で進めることを前提にしていた。だが、このように進むというのは講師の思い込みだった。
どのようなものだったのか。講義で取り上げたポイントをいくつか選び、職場でやっていこうというものにすぎなかった。それも1つの「解」だが、少し寂しい気がした。なぜなら、講義で話した内容を自職場の問題点に置き換えて原因と対策を考えるという、「議論の基本」に沿った展開を筆者は期待していたからだ。
ここで見えたのは、DRの仕組み以前の問題点だった。すなわち、議論の基本を踏まえて取り組むことができていないのだ。その大切さを改めて痛感した。
まずは議論の基本を押さえる
本コラムの第11回でDRの仕組みについて取り上げ、DRの構成要素には7つあると説明した。[1]DRの対象、[2]実施タイミング、[3]対象を構成(議論)する項目、[4]項目の内容、[5]メンバー構成と役割、[6]運営、[7]水平展開、である。ところが、今回の経験から得た教訓は、「仕組み以前に、議論の基本を根付かせねばならない場合もある」ということだった。
議論の基本とはこうだ。
(1)「問題点」を抽出する
(2)「真の原因」を見極める
(3)取り組む「対応策」を決める
真の原因を見極めれば、対応策は的を射たものになる。真の原因を把握する方法としては、本コラムの第36回で紹介した通り、「なぜなぜ分析」が有効だ。この手法を使うことも議論の基本である。では、なぜなぜ分析について振り返ってみよう。
なぜなぜ分析と聞くと、製品(もの)の品質不具合の対応の際に使う道具であるとすぐに頭に浮かぶだろう。だが、多くの人が誤解しているのだが、なぜなぜ分析は技術上の不具合の原因を見いだすための道具ではない。仕事のやり方のどこがまずくて不具合を起こしたのかについて、真の原因、すなわち管理上の原因を見いだすのが、なぜなぜ分析の役割だ。
つまり、なぜなぜ分析は、ものが関係するか否かにかかわらず「仕事のやり方のまずさ」を見極める際に力を発揮する。今回のテーマである「DRがうまくいかない」というのも、議論がうまくいかないという仕事のやり方のまずさである。従って、ここになぜなぜ分析を活用すれば、DRがうまくいかないことについて管理上の原因を見極めることができる。