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 東京五輪で日本人選手の金メダルラッシュが続いている。メダルに手が届くまでには、心構えや取り組みの積み重ねがある。ある卓球選手は3、4歳の頃から五輪に出ると思っていたとのことだ。

 ものづくりの世界も五輪でメダルを目指す取り組みと共通するところがあると筆者は思う。それは、世界で優位に立つという思いと、その思いを踏まえた高い目標値の設定、そして、その目標値を満たすプロセスの達成に向けて愚直に着実に歩み続ける、ということにおいてだ。詰まるところ、設計開発における[1]先行開発段階と[2]量産設計段階の取り組みは、愚直に着実に歩み続けねばならないということだ。

 前回は、[2]の量産設計段階を愚直に着実にやりきる、7つの要素(以下、7つの設計力)について取り上げた。今回は、[1]の先行開発段階の設計力を取り上げる。先行開発段階も量産設計段階と同じく7つの設計力から成る。

 先行開発段階の目標は、競合に対して優位性を確保すること。究極の目標は「世界No.1」製品のめど付けだ。めどを付けるための必要十分条件は、量産設計段階と同様に、手順と職場環境が必要条件で、判断基準と議論・決裁が十分条件だ。これらが先行開発段階のアウトプットを得る前提条件である。

 前提条件を先行開発段階の仕組みに当てはめると、7つの設計力は以下となる。

先行開発段階における7つの設計力

 仕事の手順は「先行開発プロセス」、これが第1の設計力だ。先行開発プロセスは、開発製品の選定や目標値の設定、ネック技術のめど付けから成る(1)基本プロセスと、ワールドワイドなベンチマークなどのサポートツールを使った(2)サポートプロセス、開発促進会議などの(3)マネジメントプロセスの3つのプロセスで構成される。なお、先行開発プロセスの詳細は第53回で取り上げている。

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* ネック技術 職場に備わっている基盤技術だけでは対応できない技術課題のこと。

 続いて、良い環境。第2番から第4番の設計力がこれに該当する。第2の設計力は、「蓄積された技術的な知見・ノウハウ」である。特に重要なのは、豊富な開発成功事例だ。うまくいった仕事のやり方や技術的な知見を踏まえることが大切なのだ。ちなみに、量産設計段階では失敗事例が大切だった。製品の固有技術や要素技術の知見・ノウハウなどの基盤技術が重要であることは言うまでもない。

 第3の設計力は「各種ツール」だ。最新の解析技術を駆使せねばならない場面がある。各種ツールには、MDB(Model Based Development;モデルベース開発)やCAE(応力、熱、流れ、磁気解析など)のほか、阻害要因打破(ブレークスルー)のための発想法や、開発製品選定などの「方針決め」に力を発揮するなぜなぜ分析、目標値を絞り込む品質機能展開(QFD)やVE(Value Engineering)などを場面によって使い分ける。

 第4の設計力は「人と組織」である。まず「人」だ。人については技術者であることにとどまらず「開拓者」でありたい。技術的な検討を行うことは言うまでもなく、課題把握力や情報収集分析力、システム理解力、他社製品調査力、特許調査力、実機調査力、ロードマップ活用力など、さまざまな能力が必要だ。まさに開拓者である。