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 米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手が、アメリカンリーグの最優秀選手(MVP)に選ばれた。心から祝福したい。受賞発表が近づき、NHKのニュース番組が大谷選手にインタビュー。キャスターが「大谷選手は目標、目標、目標と何度も何度も繰り返した。とにかく多かった」ということを伝えていた。

 「やはりそうか。そうだ、その通り」と思った。物事を成し遂げるには目標を持つこと。そして、目標に向かって取り組み続けねばならない。これが大谷選手が伝えたかったことではないだろうか。このコラムでも機会あるごとに目標の大切さを取り上げている。

 ところで、筆者はというと、目標は設定すれども三日坊主が常だ。しかし、これでは企業は成り立たない。掲げた目標に向かって取り組み続けるには、何が必要だろうか。実は、目標を決めるまでの「助走」が大切なのだ。今回は、この目標決めまでの「助走」を取り上げる。

 仕事柄、製造業の人に「目標を設定していますか」と聞く機会が多い。多くの場合、「設定している」と返ってくる。ところが、「目標を達成していますか」と聞くと、胸を張って達成している人と答える人は少ない。開発設計が進むにつれて目標値を下げるのである。

 こういうことだ。開発設計が進むと課題が見え、開発設計者の前に立ちはだかる。最初は正面から向き合って突破しようともがき苦しむが、しばらくすると岐路に立つ。諦めずにやり続けるか、それとも方向転換するか。迷いが訪れる。

 目標を達成しているという回答が少ないのは、正面突破を諦め、方向転換する職場が少なくないということだ。性能目標値を下げると競合他社を圧倒できなくなるが、受注はできる。目標原価を超えてしまうが、赤字にはならない。ここまで頑張ったのだから、目標を下げてもやむなしと、折り合いをつけることになる。目標は、「言うは易く行うは難し」だ。

 なぜ、苦しくなると諦めてしまうのか。多くの場合、目標を設定するまでの「助走」に問題がある。ここで言う助走とは、動機づけのことだ。目標を決める動機づけがないか、あっても不十分なのだ。

担当だからやっている?

 設計プロセスには、目標決めのステップがある。「目標決めはルールだから設定した」というだけでは、やりきることが難しい。課題が立ちはだかり、苦しくなると諦め、易きに流れてしまう。では、目標をやりきるには、どのような動機づけが必要なのか。

 動機づけの要素は3つある。「志」と「方針」と「根拠」だ。まず、志とは「思い」のこと。開発設計者が持つ、開発対象(以下、製品)への思いだ。「開発を命じられたからやっている」「たまたま担当になったからやっている」というのでは、立ちはだかる課題に立ち向かい、目標達成のために戦い続けることは難しい。もっともらしい言い訳やできない理由を並べて周りを納得させようとする。

 一方、「この製品を世界No.1にする」「競合他社を圧倒するのは自分しかいない」「他社が実現できていない機能を達成することが楽しみだ」など、おのずから開発製品に対する思いを持っていると、少々のことでは諦めず、挑戦し続けることができる。これが志だ。この志を持ってほしいし、持たねばならない。