全2206文字
PR

 日本企業におけるデジタル化が遅れているという指摘がされて久しい。昨今では「デジタル後進国」とまで言われている。

 今の日本企業がデジタルという領域において遅れているか否かについては確かなデータがないのでなんとも言えないが、私の肌感覚では米中に対してデジタル活用で負けていないとは言い難い。

今さらなDXへの理解

 日本政府の方針もあり、デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉がメディアで多用される時代になった。これは良い傾向だと思う。ただ、海外に目を移すと、日本以外にDXという言葉で盛り上がっている国がそれほどあるようには見えない。

 誤解のないようにあらかじめ言っておくと、DXという概念は個人的には非常に良いものだと思っている。「単にデジタル化を目的にするのではなく、変革を恐れず時間を有効的に活用し、幸福のための手段として実効性のあるデジタル化を行う」。こうした当たり前のことを定義したDXという言葉は、今の日本企業にとって重要なキーワードである。

 ただ、この言葉がエリック・ストルターマン氏の論文で登場したのは2004年だ。それからもう18年の歳月がたっている。

 にもかかわらず、日本社会では「ようやく」デジタルを活用して変革しなければならないという考え方が理解されたということを、昨今のDXブームは意味している。

(出所:日経クロステック)
(出所:日経クロステック)

日本企業がDXで気づいた現実

 そもそも、物事には順序というものがある。山に登りたいからといって未経験者がいきなりエベレストに登ろうとするのは愚かだ。経験者から指導を受け、まずは低い山で訓練を行う。そこから徐々に高度を上げていき、低酸素に慣れてからようやく高い山への挑戦が可能になる。

 同じく、1980年代にコンピューターが世界に浸透した頃の企業のデジタル化にも順序があったと思う。

 最初に適切なアドバイザーや専門家を、最高情報責任者(CIO)や最高技術責任者(CTO)、デジタル担当顧問として招き入れる。その専門家の指導の下、社内で有能なエンジニアを育て、業務に関するあらゆる事項をデジタル化する。そして、業務データを分析することで現場の改善を促し、システム構成をシンプルなものに再構成して、状況をリアルタイムに把握するためにセンシング化を行う。そこから必要に応じてチャットツールやマーケティング・オートメーションなどのツールを導入してきた。

 そもそも、日本の企業には「お飾り」のCIOやCTOが多い。現場をよく知り開発経験もあって責任を持ってデジタル化を推進できるCIOやCTOが少ないため、社内に有能なデジタル人材が育たず、開発をITベンダーに丸投げしてきた歴史がある。

 にもかかわらず、上からDXを命じるというのは、訓練も準備もできていない人間に、いきなりエベレストに登れと命令しているようなものだ。それでは、命じられた側はどうすればよいのか分からない。分からないまま進めば大けがをする可能性があるので、さまざま言い訳をしつつ、一向に前へ進む気がないのも当然と言える。