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あるある事例

 「何をやってるんだ!」。工場長A氏の叫び声が工場の事務所内に響きわたり、周囲は一瞬静まり返った。普段、温厚と評されるA氏が叫んだ理由は、生産がひっ迫しているさなかで、主力設備が故障してしまったからだ。

 故障の影響は大きく、出荷が大幅に遅れることは確実。大問題に発展することは避けられなかった。だが、A氏は故障そのものに怒りをぶつけたのではない。故障の内容にだ。定期的に交換するはずだった部品が、規定の頻度を超えても交換されずに使い続けられていたのだ。

 故障した設備Xは工場の主力設備であり、稼働の要だった。この設備にはいくつかの定期交換部品が存在しており、問題となった部品について、メーカーは年に1度の頻度で部品を交換することを推奨していた。保全係を配下に持つ製造課長の報告は、次のようなものだった。

 「保全係では、問題の部品を含めて、何をどの頻度で交換すべきかを台帳で管理していました。しかし、生産がタイトなので、設備を止めることはできません。保全に時間を割くことができないので、やむを得ず推奨された期間を超えて使い続けていました。工場長も設備を止める余裕などないことはご存知でしょう?」

 確かに、工場のメンバーに負担をかけながら生産増に対応していることは、工場長であるA氏に責任がある。製造課長も「あなたのせいですよ」と言わんばかりであった。

 ところが、A氏が詳細を調べてみると意外なことが判明した。保全対応として、毎週末に短いながらもメンテナンスの時間を設けていたのだ。だが、その時間は有名無実化していた。生産が多忙になると、メンテナンスの時間は諸般のトラブルによる生産遅れが発生した場合のバッファーになっていたからだ。決してメンテナンス時間が取れないわけではないが、多忙や経費の節約を理由に、面倒な保全を回避していたというのが実態である。

 さらに調べると、保全担当者が交換頻度の推奨を無視していたことも判明した。「今まで故障したことがないから、メーカー推奨など守らなくてもよいだろう」と考えていたというのだ。こうしたさまざまなことがきっかけとなり、いつのまにかメンテナンスの時間を生産計画から外すことにつながっていった。

 結局、稼働を最大限に高めるための保全活動が、生産性を理由に軽視されていたことが、工場としての大きな失態だった。

いつか壊れる設備の保全は評価と実施の「見える化」が必須

 いつかは分からないが、将来、必ず発生するリスクに対して、どう対応すべきかという問題について考えてみよう。

 製造課長は「稼働率の目標達成」を課せられている。その目標達成を邪魔するような活動と感じられる設備保全に、製造課長が積極的になるだろうか。「生産数の最大化」を命じられた生産現場が、生産性を一時的に落としてまで設備保全に時間を割こうとするだろうか。誰しも、自分の評価(俗な言い方をすると、査定につながる目標数字)を下げるような行動をしようとするはずがない。

 工場の管理者には、設備保全を実施すべき工場メンバーに「生産活動と同じく、設備保全も優先度の高い業務だ」と明確にすることが求められる。目標管理の対象として、組織や個人の活動計画にも明確に盛り込むべきだ。そこの位置づけが甘いと、日常業務を優先してしまい、設備保全は設備が故障するまで忘れ去られて、突然、惨事が起きることになる。そのとき気づいても遅い。

[1]設備保全は見える化すべし
 この設備は、いつ、どの箇所を点検、あるいは修理、交換するのか。担当者だけではなく、工場管理者の誰が見て分かる状態をつくっておく。そうすると、設備保全が行われているか否かが明るみになるので、生産現場が設備保全の要否を勝手に決めたり、恣意的に実施時期をずらしたりすることを避けることができる。

 その上で、どうしても設備保全の時期が来たのに実施が難しい場合は、工場の管理者がさまざまな状況を踏まえて判断を下せばよい。例えば、多忙で対応できない時期があっても、1カ月、あるいは1週間だけ遅らせて実施する、などの対応を取ることができる。

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[2]設備保全の仕事量は必ず定量化すべき
 設備保全を実施しない最大の理由は業務の多忙さにある。しかし、全くその時間がないかどうかについては、定量的に把握する必要がある。そうしないと、「忙しいからやめる」という結論に至ってしまうからだ。

 例えば、週単位の保全活動には、どのような項目があり、それらを実施するのにどの程度の時間がかかるのかを明確にする。月単位や年単位での保全活動も同様だ。仕事量が把握できれば、それを保全計画に組み込むこともできるし、多忙になった際にも、どこまでなら実施できるかという次善の策を検討することができる。

強い工場の担い手レベルチェック(確実な保全を推進しているか?)

 では、管理者である人に伺います。あなたの職場では、確実な保全を推進して稼働の安定に努めていますか? ここでレベルを確かめてみてください。

レベル5:計画的な設備保全を実施している。各職場では、担当者が時期を決めて設備保全の活動を実施しており、その進捗状態も全て工場の管理者は把握している。また、定期的に保全内容の見直しを実施しており、品質やコストなどを総合して最適な保全活動の実施を目指している。

レベル4:計画的な設備保全を実施している。各職場では、担当者が時期を決めて設備保全の活動を実施しており、その進捗状態も全て工場の管理者は把握している。進捗に問題がある場合は、現場の判断に任せず、工場の管理者が判断している。

レベル3:設備保全の計画が立てられており、組織として設備保全に取り組んでいる。しかし計画が完全に履行されているとは言い難く、まだ改善の余地がある。

レベル2:設備保全を実施するように生産現場に働き掛けている。生産現場任せとはいえ、いくつかの設備保全の活動は実施している。

レベル1:設備保全の必要性は認識しているが、実際は、「壊れたら直す」を繰り返している。

 計画的で最適な保全活動をしているレベル5を目標に、まずは1ランクアップを目指してほしい。