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 工場では、設備トラブルや品質トラブルなど、さまざまなトラブルが突発的に起こる。そのため、トラブルを未然に防止するための取り組みを行うことは必須だ。しかし、全てのトラブルの内容を予測し、未然防止できるものではない。トラブルが発生してしまった場合、その被害をできる限り最小限に抑えながら、速やかに原状復帰できることが重要だ。このために事前にできることの1つに、「トラブル対応の手順書」の作成が挙げられる。想定されるトラブルに対し、どのような手順で対応するかについて決めておくのである。

 ところが、残念ながら全てのリスクやあらゆるトラブルを想定して対応策を考えることは事実上不可能だ。そこで考えるべきは、仮に「想定外」のトラブルが発生しても、慌てずに、できる限り被害が拡大しないように速やかに対応できる組織力を身に付けることだ。

強い工場づくりのポイント

 火災や地震などの災害が発生したとき、何をすればよいかが分からずに右往左往していると、被害はますます拡大してしまう。そのため、災害が発生したことを想定して訓練を繰り返す。確かに、災害は想定した通り(訓練した通り)には起こらないことが多いが、何度も訓練をしていると、いざというときに慌てずに事態に対処できる力が身に付く。

 工場のトラブルでも同じことが言える。「こういう場合には、こういう手順で、こういう行動をとる」といった具合にトラブル発生時の対応手順を考えておくことは最低限必要なことだ。ただし、各トラブルは微妙に条件が違う。従って、あらゆる条件を想定することは不可能だ。「想定できるトラブル」には限界があることも押さえておいてほしい。

 では、どうすべきか──。強い工場では、想定外の事態にも慌てないために、あえて「トラブル対応マニュアルから逸脱した事態」を何度も繰り返してシミュレーションする。決まった訓練しかしていないと、いざその条件から外れたことが起こった際に慌ててしまう。しかし、常に「想定から逸脱した事態」に対する訓練を繰り返すことで、いざという事態に対しての耐性が高まる。これは組織力のトレーニングとも言えるだろう。

あるある事例

 工場長のA氏は就任早々、大きなトラブルに遭遇した。定期的にメンテナンスしている設備の主要部品が破損してしまい、生産が止まってしまったのだ。該当する主要部品には寿命が設定されている。そのため、定期的なメンテナンスの中で、当該部品の寿命を確かめることが確認項目の1つとして挙げられていた。

 この部品は定期交換を前提としていたので、交換に伴う作業手順書があり、適切に交換作業を行えば、特に問題なく設備を復旧できるはずだった。だが、実際は想定外の出来事がいくつも発生し、設備の復旧が大幅に遅れてしまった。その結果、出荷に重大な支障を来す事態になった。

 まず、その設備に詳しい技術担当のX氏が出張のため不在だった。そのため、別の技術者Y氏が現物とマニュアル、そして作業手順書を見ながら交換作業に取り掛かった。不慣れなために交換がうまくいかず、そのたびに電話でX氏とやり取りをしながら対応することになり、何時間もの損失を生んでしまった。加えて、そもそも設備マニュアルが決まった位置に置かれていなかったために、修理対応以前に工場の中でマニュアルを探すことに時間がかかったのだ。

 交換用の予備部品がすぐには使えないという問題もあった。その理由はこうだ。部品は定期交換を前提にしていたので、工場の備品庫には予備部品が保管されていた。だが、備品庫の5Sが乱れており、ほこりだらけの段ボール箱をいくつも開梱しながら苦労して予備部品を探し出した。ところが、そのやっと探し出した予備部品が、保管の悪さから一部分が劣化しており、設備メーカーからの代替品を急遽手配しなければならないことになったのだ。

 本来であれば、仮に故障が起きても予備部品と作業手順書があり、設備に詳しい技術者X氏がいれば、「想定通り」にすぐに交換が完了して設備を復旧できたはずだ。しかし、予備部品は使えず、作業手順書は決められた場所以外の所に置かれていた。加えて、X氏は不在で、担当ではない技術者には分かりにくい内容の作業手順書だったという絵に描いたような「想定外」の出来事に遭遇した結果、設備の復旧が大幅に遅れてしまったのである。

 工場長のA氏は、この事件を教訓にして、想定されるトラブルは必ずしも「想定内」で発生するのではなく、「想定外」の状況が必ず発生するものだと理解し、現在のトラブル対策、すなわち想定されるトラブルに絞って作業手順書などの対応マニュアルを準備するだけでは不十分だという結論に至った。