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あるある事例

 工場長のA氏は、新しく赴任した工場で面白い取り組みが行われていることに関心を持った。年に1度行われている「チャレンジカップ」と称する活動だ。「限界に挑戦しよう」というスローガンの下、生産性や品質の限界にチャレンジするというものである。人件費を度外視して普段よりも人数をかけたり、リードタイムを度外視して普段よりも丁寧に前処理をしたり、あるいはコストの制約で普段は使わないような設備・治工具を使ったりする。あらゆる手を尽くして、生産性や品質をどこまで高められるかを競い合い、工場としての最高記録(チャンピオンレコード)を塗り替えようという取り組みである。

 現在は制約条件があるために、最高記録をたたき出した取り組みが実現できなかったとしても、今後、制約条件を解決できれば、それらを実現することができる。すなわち、最高記録となった生産性や品質を実現できるということだ。

 A氏は、このチャレンジカップ活動の有効性を強く認識した。改善すべき課題を明確化できるだけではなく、制約条件を排してより多くの改善案を掘り起こせるというメリットがある。加えて、「ここまでならできる」という限界を突き詰める意味もあると感じたからだ。

 その一方で、A氏は過去の苦い経験を思い出した。A氏が製造課長だった時、親しい営業課長から納期まであまり時間がない受注の相談を受けた。工場の稼働はかなりタイトな状況だったが、「納期の要求に対応できれば、必ず受注できる」と言う営業課長の強い要望に、何とかなるだろうと受けてしまったのだ。

 受けてしまった以上は、対応しなければならない。人のやり繰りや休日出勤対応などの大混乱を引き起こしつつも、何とか出荷にこぎつけた。ところが、出荷後にA氏は当時の工場長に呼び出され、「君は、今回の対応でどれほどのロスコストを発生させたのか把握しているのか?」と聞かれた。A氏は、売上増により会社に貢献したと思っていたので、この質問は想定外だった。

 戸惑うA氏に対し、工場長は次の2点を指導した。
[1]経済性・合理性を最大にするように操業している中で、それを崩すような特別対応を行えば、工場の経営数字は悪化することを認識しなければならない。
[2]一時的に特別対応が可能な水準はどの程度なのか、どの程度の水準を超えると本当に限界が来るのか、管理者であれば正確に把握しておかなければならない。

管理者は必ず限界を知っておく

 営業部門は、厳しさを増す顧客の要求を受けながら、どこまで工場に要求してよいかを計るために「観測気球」的に厳しい要求を投げる。工場が対応できれば、次はさらに厳しい要求を投げてくる。こうして工場と営業がある種の「腹の探り合い」をしながら業務を遂行することは、間々ある。また、工場の限界水準や、経済的・合理的な水準は、たとえ工場がそれらを把握していたとしても「部外秘」にされることが多く、その場合もこのようなムダな探り合いによって業務効率は低下する。

 「これ以上、設備を連続操業すると故障の危険性が高まる」、「これ以上労働時間が長くなると、生産現場の作業者の負担が無視できなくなる」、「これ以上検査を厳しくすると、コスト負担が無視できなくなる」といった工場の「限界」を知る必要がある。限界が分かれば、厳しい納期に対応することや、増産の対応、トラブルの対応などが発生しても、「どこまでなら対応できる」といった限界を客観的に議論することができるようになる。同時に、「その対応を行うと、こうした追加コストが発生する」といった無理をした場合のデメリットも分かるようになる。

 決して「無理をしないで安全運転の工場になれ」と言っているのではない。気合いと根性で乗り越えるのではなく、客観的に状況を把握した上で、どこまで厳しい要求に対する「ストレッチ」ができるかを考えることが、工場マネージャーの役目だと考えてほしい。