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 次のような質問が私の事務所に寄せられました。

【質問22】
國井 良昌
國井 良昌
國井技術士設計事務所 所長

 私の兄は建築士です。建築士の場合、例えば「森と調和する美術館」や「3世帯同居の一戸建て」などを設計する際に、そのコンセプトや予算に応じた規模、メンテナンス箇所、強度計算を含んだ「設計書」を作成し、コンペ(建築設計の競技)に臨んでいます。どうして、機械設計には「設計書」の単語がないのでしょうか?

 この質問に対する私の回答はこうです。

【回答18】

 恐らく、実務経験のない学者か誰かがそうした設計フローの学術書、もしくは教科書を作成したのだと思います。それを実務経験の浅い執筆者が転記し、長年の間に日本企業から「設計書」が消えてしまったのでしょう。

日本の製造業から消えた「設計書」

 寿司職人や大工の世界では、親方が弟子に長い期間「修行」させ、基本姿勢を日々指導しています。例えば、寿司職人といえば、「飯炊き3年握り8年」という言葉がある通り、修行は10年以上かかると言われています。しかし、技術者の場合、この修行が全くありません。その証拠に「いきなり製図」です。

 「國井先生、またその話ですか!」と、最近の本コラムによく出てくる寿司職人の修行話に「うんざりです!」という読者がいると思います。従って、このしつこいセンテンスは今回で終わりにします。でも、とても重要なセンテンスであることだけは理解しておいて下さい。つまり、設計者が職人であるならば、他の職人と同様に修行することが必要です。料理人や大工の仕事に基本姿勢や基本のフローが存在するように、設計者にも基本姿勢や設計フローが存在しているからです。

 どの職人も若者に、手抜きのフローなど指導するはずがありません。正統派のフローを徹底的に仕込みます。それが、先の「飯炊き3年握り8年」です。しかし、設計者の多くは、いきなり「手抜き」を教えられているような気がします。これではリコールを起こしてしまうのも当然でしょう。

 若いときに1度「手抜き」を覚えてしまうと、もう2度と「正統派のフロー」には戻れません。職人もアスリートも同じです。今回は、若き設計者に大切な「正統派の設計フロー」を学びましょう。

商品(部品、システム、生産など)開発のフロー

 図1は、商品開発や部品開発、生産開発、システム開発などに関する一般企業における開発フロー(設計フロー)です。

 若手設計者のあなたに注目してほしい項目は、以下の通りです。

[1]開発とは企画から始まるもの
[2]企画書の次には仕様書がある
[3]企画書、もしくは仕様書を具現化したものが設計書
[4]設計書を審査するのが設計審査
[5]設計審査で承認された後に、やっと構想設計と試作図面が来る
[6]試作は実験の場ではなく、確認の場
[7]試作での確認がとれた後、ようやく量産図面となる

図1●商品、部品、生産、システムなどの開発フロー(設計フロー)
図1●商品、部品、生産、システムなどの開発フロー(設計フロー)
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 さらに要点をまとめると、日本におけるセミナーや書籍にも記載がない日本企業の弱点があります。それが、図中の「設計書」です。日本企業の多くに設計書が存在していないのです。設計書が書けない設計者? 摩訶不思議ですね。

設計者のアウトプットは設計書と図面

 本コラムの第14回「スカウトされない日本人設計者」は、衝撃的な内容だったと思います。その内容は、世界の技術スカウトマンは日本人の設計者をスカウトしないというものでした。その原因は、以下の通りです。

(1)公差計算ができない
(2)コストを見積もれない
(3)設計書が書けない

 実は、これらは「設計書が書けない」でくくれます。次に、図2を見て下さい。同じ設計者でも、建築士は設計書を作成しています。その対価として設計料を得ています。図面は設計書に付随するドキュメントであり、設計料の主たるものではありません。

図2●設計者のアウトプットは設計書と図面
図2●設計者のアウトプットは設計書と図面
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 企業の設計者において給料の基本的源泉は、設計書と図面です。このアウトプットなしに給料を得ているとしたら、とんでもない「給料泥棒」でしょう。設計書とは、設計者にとって最重要であり、最低限のアウトプットです。

 あなたが設計者であって設計書が書けないとしたら、それはラーメン屋でありながらラーメンを作れないことと同じです。これは大事件です。