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【質問】
 毎号のコラムを読んで勉強しています。「一人前の設計者(設計職人)になるには、設計のワザを身に付けるための日々の修業と自己研鑽(けんさん)を継続しなければならない」という先生の教えを胸に刻もうと思っています。ただ、少々虫がいい話であることは覚悟の上で、教えてください。お客様に緊急に対処できるワザは存在しますか? 手抜きではなく、あくまでもお客様への緊急対応のためです。

 この質問に対する私の回答はこうです。

【回答】
 本コラムを一生懸命に読んでいただいていることに関して、私はもちろん事務所のスタッフ全員が大変感激しています。しかし、2週間に1度の公開では間が空きすぎて、十分な理解や修業を積むには限界があるかもしれません。その場合はセミナーやコンサルテーションも検討してください。その「復習」として位置付けると、より価値のある、有益なコラムになると自負しています。実際、私のセミナーの参加者やコンサルテーション企業の技術者は、昼休みなどに復習として本コラムを閲覧しているようです。昼食時間にも「修業」していることがポイントです。キツイですか? 職人の修業が楽なはずはありませんよ!

 では、質問に答えましょう。まず、「緊急に対処できるワザは存在しますか」という点に、手を抜きたいという本音が隠れているようで気になります。設計職人に手抜きは厳禁です。しかし、「あくまでもお客様への緊急対応のため」とあるので、質問者を信じましょう。結論から先に言うと、「レベルダウン法」という匠(たくみ)のワザがあります。

レベルダウン法とは

 第46回でその骨格を成す匠のワザ[3]、つまり「トラブル完全対策法」を全て説明しました。復習として図1を眺めてください。

図1●4つのトラブル完全対策法の解説を全て終了
図1●4つのトラブル完全対策法の解説を全て終了
(出所:國井技術士設計事務所)
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 繰り返しますが、トラブルに関して緊急に対処できるワザや、手抜きのワザ、簡易的なワザなどは、職人の世界には決して存在しません。しかし、トラブル完全対策法よりは、ほんの少し工数が少なくなるワザが存在します。それが匠のワザ[4]のレベルダウン法です。確かに、市場でのトラブル発生と同時に、緊急に対処しなくてはならない場合はあります。こうしたケースで使用するのがレベルダウン法です。

 ここで、設計審査における「承認」と「却下」の定義を思い出してみましょう。例えば、第43回の「フールプルーフ設計思想」は「目を閉じても安全性や確実性を提供できる」ことがポイントでした。この部分は、私の専門である設計工学の正式用語では「設計方針」と言います。次に「~が検証された」という部分が、設計工学でいう「設計検証」、つまり、前述の設計方針で、QCDPa(品質、コスト、期日、特許)を満たせる証拠や証明のことです。

 「方針:OK、検証:OK」で、初めて「承認」と定義できます。ここで、片方が「NG」か、もしくは両方が「NG」の場合は「却下」であると解説しました。私の事務所のクライアント企業では、設計書による設計審査は当たり前です。大掛かりな設計変更に関しては、「設計変更書」という設計書による設計変更審査を実施しています。いずれにせよ、「承認」を得るには大変な工数がかかります。

 例えば、本来は「フェールセーフ設計思想」に基づいて機器にセンサーを新設したいと考えていても、目標コストを大幅に超えてしまう場合や、納期が1カ月を超えてしまう場合があります。しかし、顧客は一刻も待ってはくれません。そうした場合は、顧客に納得してもらうことを条件に、トラブルの再発の可能性はあるけれども、発生頻度などを低下させる方法が有効です。それがレベルダウン法なのです。

 図2は、私の事務所がクライアント企業に勧めているシンプルなFMEA(故障モード影響解析、3D-FMEA)です。この中の「評価点」(図3の赤枠部分)のうち、「発生度」と「影響度」のレベルを下げるのがレベルダウン法です。例えば、発生度を5から2へ、あるいは4から1へとレベルダウンさせて対策するのです。先述の通り、特徴はトラブルの再発を許すものの、そのレベルをダウンさせる設計思想であることです。

図2●國井技術士設計事務所が推奨するシンプルなFMEA
図2●國井技術士設計事務所が推奨するシンプルなFMEA
(出所:國井技術士設計事務所)
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図3●シンプルなFMEAのレベル表(一例)
図3●シンプルなFMEAのレベル表(一例)
(出所:國井技術士設計事務所)
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