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【質問】
 匠のワザ[3]のトラブル完全対策法と匠のワザ[4]のレベルダウン法を國井先生のセミナーで学びました。その時、先生は若いころの失敗談を話していました。それは、「せっかく、匠のワザ[3]と[4]を学んだのに、その対策をトラブルの原因ではなく、トラブルの現象に打って(施して)しまった」とのことでした。知らなければ、私も先生と同じ失敗を繰り返すところでした。貴重な経験談を話していただきありがとうございました。

 この質問に対する私の回答はこうです。

【回答】
 今回は特に質問ではなく、セミナーに関する御礼のようですね。実は、韓国の技術者から御礼の電子メールをもらうことは多いのですが、日本の技術者からこうした電子メールをもらうのはとても珍しいので、私の事務所のスタッフは皆、とても喜んでいます。実は、海外企業には社内セミナーも社外セミナーも基本的には存在しません。しかし近年、韓国の大手企業は、日本企業にならい、社内セミナーを開催するようになりました。受講料は5万円相当で、受講者は勤務先である自社に支払います。しかも、日曜日開催でも休日出勤手当なんて出ません。なぜなら、業務指名制の競争社会だからです。箱根駅伝の学生選手と同じで、実力なき者は選手として出場できないのです。従って、社内セミナーは緊張の連続。受講者よりも講師の私の方が疲労こんぱいします。日本では社内セミナーでも社外セミナーでも、基本的に受講者の支払いはないと思います。会社がお金を出してくれて、おまけに出張旅費まで出してくれます。今の日本人技術者に欠如しているものは、「競争の原理」ではないでしょうか。

 あっ、しまった! 愚痴から始まってしまいましたね。興味のある人は、本コラムの第7回、もしくは、書籍「ライバルを打ち負かす設計指南書『攻めの設計戦略』(日経BP)」の第1章の「やる気のない技術者は後方の座席を好む」を読んでください。機嫌が悪くなる読者がいるかもしれませんし、図星の大当たりでゲラゲラ笑う読者もいるかと思います。

せっかく習った匠のワザ[3]も[4]もムダになる

 重複しますが、学校では教わることがない匠のワザ[3]のトラブル完全対策法と匠のワザ[4]のレベルダウン法には、技術者はもちろん、医者や政治家、教育関係者や経営者までもが興味を抱いてくれます。しかし、せっかく習得した匠のワザも、トラブルの原因ではなく、現象に施してしまうとムダになります。この状況を昔の賢人は「宝の持ち腐れ」と称したのだと思います。一方、これを容易に防ぐ方法があります。それは、設計審査における「承認」と「却下」の定義です。

 例えば、第43回で紹介した「フールプルーフ設計思想」ですが、「目を閉じても安全性や確実性を提供できる」という部分は、筆者の専門である設計工学の正式用語では「設計方針」といいます。

 次に「~が検証された」という部分が、設計工学でいう「設計検証」、つまり、前述の設計方針で「QCDPa」を満たすことができる証拠や証明のことです。ここで改めてQCDPaとは、Q(Quality、品質)、C(Cost、コスト)、D(Delivery、期日)、Pa(Patent、特許)のこと。私の事務所専用のコンサルテーション用語です。

 「方針:OK、検証:OK」で初めて「承認」と定義できます。少なくとも一方が「NG」であれば、却下と解説しました。つまり、トラブル完全対策法やレベルダウン法を原因ではなく現象に施した場合、前述の「設計検証」が成立しません。設計検証が成立しないということは、設計審査で却下です。もし、その網をすり抜けてしまった場合はトラブルが再発します。

誰もが対策志向型の技術者となってしまう

 トラブルが発生すると、どうしても「原因の原因」や「真の原因」を把握することなく、誰もが対策志向型の技術者となってしまいます。実は、若い時の私もそうでした。事例を掲示しましょう。

[1]電気回路のヒューズ:若き日の私は、制御回路を使用してモーターのトルクカーブを測定していた。そのとき、回路のヒューズが突然切れた。実験室の棚にあった残り1つの予備ヒューズに交換したが、再びヒューズが切れた。もうヒューズはない。そこで、事務用クリップでヒューズボックス内を導通させた。技術者として、真の原因を把握することを怠り、ヒューズが切れたという現象に手を打ったのだ。あってはならない「技術者の禁じ手」を施してしまった(図1)。

図1●電気回路のヒューズに関する匠のワザ[5]の悪しき例
図1●電気回路のヒューズに関する匠のワザ[5]の悪しき例
(出所:國井技術士設計事務所)
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[2]シュレッダーの指切断事故対策:浜松市に住む2歳の女子が、小型シュレッダーの用紙投入口から入れた指9本を切断した。その再発防止対策として、別のメーカーが用紙投入口に静電タッチセンサーを設置した(図2)。

 しかし、手袋や傷テープを貼っていたらセンサーは反応しない。また、図3に示すように、用紙投入口の幅を20mmから2mmにした製品も登場したが、これは「本末転倒」の類である。いずれも指を差し込んだという現象を対策し、切断した原因、つまり、ロータリーカッターに対策を施していない。

図2●小型シュレッダーに関する匠のワザ[5]の悪しき例
図2●小型シュレッダーに関する匠のワザ[5]の悪しき例
(出所:國井技術士設計事務所)
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図3●小型シュレッダーの用紙投入口の幅を2mmにする対策(本末転倒の対策)
図3●小型シュレッダーの用紙投入口の幅を2mmにする対策(本末転倒の対策)
(出所:國井技術士設計事務所)
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[3]回転ドア事故対策:大阪に住む6歳の男子とその母親が東京・六本木ヒルズにやって来た。初めて目にする回転ドアに興味を示したその男子は、母親から手を放し、回転ドアに突進して頭部を挟まれて死亡した。回転ドアの光センサーは男子の突入をセンシングすることが不可能だった。なぜなら、センサー設置場所は、男子を挟んだという現象側、つまり、回転ドアの筐(きょう)体側に設置されていたからだ。男子を挟んだ原因側は回転ドアであり、そこにはセンターが設置されていなかったのである。

[4]「7Pay」の撤退:本コラムの第40回では、トラブル三兄弟の「新規技術」と「トレードオフ」、「変更」を紹介した。これらは1つ踏めば(該当すれば)トラブル発生の可能性大、2つ踏めばトラブル発生、3つ踏めばトラブルが発生しないはずがないと解説した。その具体例がスマートフォン決済サービス「7Pay(セブンペイ)」である。私が考えるこの事件の対策は、セキュリティーの強化ではない。これは、外部からの不正行為という現象に関する対策である。それでは、原因に関する対策は何か? それは簡単、「完全撤退」である。7Pay関係者の判断に脱帽、あっぱれである。これは匠のワザ[3]のフールプルーフ設計思想に当てはまる。

[5]薬物犯罪:昨年末、ある有名女優の薬物犯罪が世間を騒がせた。大麻やMDMAやLSDを使用したという「現象」の事件である。その対策は、逮捕や有罪判決ではない。病院での手当や指導でもない。従って、残念ではあるが再発する可能性大である。では、原因に関する対策は何か? 答えは簡単。前述の薬物の存在をなくすことである。なくすこと相当する環境に移住することである。酒乱や禁煙対策や肥満症対策も同じである。

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