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【質問】

 國井先生が提唱する設計改革である「ダイレクトデザインレビュー(DDR)」を、第58〜60回まで拝読しました。劣等感と感動を同時に経験しました。ですが、先生は脱線のしすぎではないでしょうか。第50回から始まった「検図」シリーズは、どうなったのですか。弊社は埼玉県内に所在する中小企業ですが、第56回の「完全図面レス」は不可能です。そして、DDRもやはり不可能です。もう一度、紙ありき図面ありきの検図に戻って、精度と効率の良い検図方法を教えてください。

 この質問に対する私の回答はこうです。

【回答】

 私の癖の「脱線」でお叱りを受けてしまいました。すみません。本コラムの第50回から検図シリーズが始まりました。そして、完全図面レスに入り、DDRまでたどり着きました。ここまで「99.6%を占める中小企業でも使える」と強調してきましたが、それでもやはり、完全図面レスとDDRは難易度の高い設計改革メニューだと思い直し、少々、反省しています。そこで今回は、質問者の指摘通り、従来の「図面ありきの検図」へ話を戻すことにします。具体的に言うと、工業界以外の業界で検図に相当するチェック・システムを調査しました。以降で詳しく解説しましょう。

 まず、本コラムの第50回から始まった検図シリーズを以下のように整理してみました。

[1]第50~55回:第50回から検図シリーズのコラムを開始。「我流」ではない、設計工学に基づく「検図の極意」を解説しました。

[2]第56回:あくまでも「検図シリーズ」の一環として、「完全図面レス」を取り上げました。これは、日本企業の皆さんには衝撃的だったかもしれません。ある韓国企業が2013年の1月から開始した、図面がないから検図がない「完全図面レス」に関する私の事務所のコンサルテーションを紹介しました。

[3]第57~60回:実は、完全図面レスを実施できる設計力があれば、開発期間を短縮できるDDRも実施可能となります。このDDRは、世間一般に知られているバーチャルデザインレビュー(VDR)と比べて中小企業によりふさわしい設計改革であると解説しました。

 実は、[3]の4回分のコラムは脱線したわけではなく、あくまでも検図シリーズとしてのコラムでした。しかし、検図シリーズの一環とはいえ、かなり難易度が上がり、かつテーマからも少々逸脱してきたので、今回は図面ありきの検図に話題を戻すことにします。

工業界以外の業界におけるチェック・システム

 表1は、工業界も含めた各種業界の検図に相当するチェック・システムを調査した結果をです。

表1●各業界の各種チェック・システム
(出所:國井技術士設計事務所)
表1●各業界の各種チェック・システム
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 それでは、1つひとつ解説していきましょう。

①商社や銀行における契約書のチェック・システム

 例えば、10億円の商談や貸付金契約書の場合、昔は担当者が完成させた契約書を係長、課長、部長、支店長の順に、1回だけチェックしていた。このやり方ではミスが多く、また、そのミスを何度も繰り返していた。そこで現在は、工程ごと、または、週や半月、月などの期間ごとに、係長、課長、場合によっては部長までが工程チェック(期間チェック)をしている。

②農業における農産物の検査システム

 かつて、大根やホウレン草の検査は出荷検査のみで出荷していた。これをファイナル・チェックと呼ぶ。この方式では漏れがあり、かつコストの高い検査方法であった。最近は米国の米航空宇宙局(NASA)が開発したGAP(ギャップ:適正農業規範)という規定の検査方法が導入されている。これは、大根やホウレン草を植える土壌や用水、肥料、防虫剤などの品質をチェックし、芽が出て、葉が出て、実が付いてなどの成長過程ごとにチェックする方法が導入されている。ファイナル・チェックよりもGAPの方が低コストである上に、検査品質も向上した。

③メーカー製造部の組み立て検査システム

 かつては、農業作物と同様のファイナル・チェック、つまり、QC手法による結果管理に重点を置いていた。しかし、商品が多機能や部品点数が増加すると、この方法では抜けや漏れがあり、検査自体が高コストであった。近年は、検査部門ではない製造部門でも、工程ごとの工程管理に重点を置く生産体制が主流となっている。

④設計部の検図システム

 中小企業でも大企業でも、「誤字・脱字」や「JIS製図法」を検図と称している組織検図の「ガラパゴス化」が目立つ。当然、農業や製造部ではあり得ないファイナル・チェックで良しとしていることが残念である。韓国企業では、技術者は指名制なので、このような検図内容はあり得ない。QCDをチェックすることが真の検図であり、Q>C>Dの優先順位を付けて判断することが「検図の極意」である。

⑤本コラムでの提案システム

 本コラムの第55回を再読して理解する。「検図の極意」を解説するのにふさわしい設計プロセスは、図2に示す「機能検図」である。図中の赤線部は「図面だけでは判断できない検図項目」と記載されている。例えば、機能性や安全性、環境性や特許性などである。これらの機能検図が「ファイナル・チェック」でできるはずがない。そこで、①の商社や銀行の契約書、②の農業の農産物、③の製造部の組み立て検査と同様に、工程ごとに検図をする必要がある。

図2●機能検図と生産検図
図2●機能検図と生産検図
(出所:國井技術士設計事務所)
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