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【質問】

 先月、國井先生の機械加工法に関するセミナーを受講しました。実務に徹した内容で、とても斬新で感激しました。特に感激したのが次の言葉です。「現在、機械設計の難易度第1位は樹脂設計である。中でも『膨張/収縮』はトラブル件数の第1位である。それを補う『匠のワザ[1]~[6]』では、ダメージトレランス設計思想が最適である」。職場で部下にしっかりと伝達したつもりですが、先生の言葉でもう一度、教えてください。職場の皆で読んで勉強会を開催します。

 この質問に対する私の回答はこうです。

【回答】

 若き日の筆者は日本で最大の総合電機メーカーに就職し、厳しい訓練と修業を積んで設計者として徹底的に鍛えられました。現在、設計コンサルタントとして働く上で必要な設計ノウハウの全てをこの企業で学びました。諸先輩方には今でも感謝しています。今回の質問にも、その総合電機メーカーで学んだ設計ノウハウを基に回答します。

樹脂の設計難易度が高い理由

 私がその総合電機メーカーに入社して間もない時、「いいか國井、よく聞け。機械設計の最難関は鋳物部品の設計だ。身に付くまでしっかりと修業しろよ。設計室に閉じこもらず、作業現場へ何度も足を運べ」と先輩から言われました。

 このように、かつて設計難易度の第1位は鋳物設計でしたが、近年は第2位となりました。では、新たな設計簡易度の第1位は何でしょうか。それは樹脂設計です。

 なぜなら、ドロドロに溶けた樹脂材料に圧力を加える射出成形は、樹脂材料の熱収縮率が金属よりもはるかに大きいからです。おまけに、金型から取り出した樹脂部品は、基本的には機械加工を不要とする精度を求められます。

 ここで、私の事務所が提唱する「設計難易度」の定義を図1に示しました。設計難易度とは、材料から部品や製品に形作られるまでの「変身度」のことです。図中に「鋳物加工」の単語はありませんが、「鋳物加工の設計難易度=(樹脂加工の設計難易度+切削加工の設計難易度)/2」と考えらえます。従って、樹脂設計の難易度が第1位、鋳物部品の設計難易度が第2位と表現できるのです。

図1●各種機械加工の変身度(≒設計難易度)
図1●各種機械加工の変身度(≒設計難易度)
(出所:國井技術士設計事務所)
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 以降、この設計難易度第1位の樹脂設計と、それを補う「匠のワザ」の1つである「ダメージトレランス設計思想」に関して解説します。

「膨張/収縮」に関するチェックリスト

 図2は、私の事務所がクライアント企業の協力を得て分析した「樹脂成形品に関するトラブル件数ランキング」です。第64回でも掲載したものです。

図2●樹脂成形部品のトラブル件数ランキング
図2●樹脂成形部品のトラブル件数ランキング
(出所:國井技術士設計事務所)
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 第1位の「膨張/収縮」、第2位の「アンダーカット」、第3位の「反り」は、“設計職人”としては、当然、押さえておくべきポイントでしょう。そして、第64回では、この3つの項目だけに検図(簡易的な検図)を施せば効率良く検図ができると解説しました(なお、アンダーカットは成形性が悪化したり高コストになったりすることからトラブルの類としています)。

 さて、「設計難易度第1位ということは、トラブル件数の第1位だろう」と推定することは、設計職人なら容易です。第62回で樹脂設計に関する「出図チェックリスト」を公開しました。この出図チェックリストから、樹脂トラブルランキング第1位の「膨張/収縮」に関するチェックリストを図3に抜粋してみました。

図3●樹脂トラブル「膨張/収縮」に関するチェックリストの抜粋
図3●樹脂トラブル「膨張/収縮」に関するチェックリストの抜粋
(出所:國井技術士設計事務所)
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 ここで判明することは、樹脂トラブルの「膨張/収縮」は要因が多すぎることです。さらに、チェックリストなどの安易で一般的なチェック行為だけでは、制御できないことです。特に薄い赤色を塗った部分(成形条件で、特性が大きく変動しない)は、設計で制御できる範囲を越えています。