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【質問】

 当社のコンサルテーションを長年にわたってお願いしている國井先生には大変感謝しております。さて、先日のコンサルテーションで「皆さんは試作を軽々しく考えていませんか」「検図と試作の重要な関連性を語れますか」と先生に質問されて、大変焦りました。なぜなら入社以来、そんなことを考えたことがなく、全く答えられなかったからです。そこで、改めて検図と試作の関連性を教えてください。

 この質問に対する私の回答はこうです。

【回答】

 設計プロセスにおける試作を主テーマとした話は、いずれここで取り上げましょう。現在は「検図」を連載しているので、今回は設計工学の視点から検図を主体とした「試作」の意義や検図との関連性について解説しましょう。

 まず指摘したいのは、日本企業では試作という設計プロセスを軽く考えている技術者が多いという現実です。かく言う私も、若き日はそうでした。どのように軽いのかについて、その一例を設計者と同じく「職人」である料理人と比較してみましょう。

 図1の上側の表に、料理人の試作に関する「アウトプット」と「日々の活動」「試作の目的」をまとめました。それぞれ、「創作料理(の出品)」と「創作料理の試行錯誤」「料理長による試作品の確認」となります。ここで料理人を設計者に置き換えると、「設計書、図面、特許」と「新商品の設計」「初めての動作確認」となります。

図1●料理人と設計者における試作の意義の相違
図1●料理人と設計者における試作の意義の相違
(出所:國井技術士設計事務所)
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 今回のテーマに関して問題となる箇所は、上の表においてグレーで塗った枠の部分です。料理人の「日々の活動」が「創作料理の試行錯誤」の繰り返しであるのに対し、設計者の「日々の活動」が「新商品の設計」という当たり前の行為だけで済ませてよいのでしょうか。さらに言えば、料理人の「試作の目的」が「料理長による試作品の確認」であるのに対し、設計者の「試作の目的」が「初めての動作確認」だけでよいのでしょうか。同じ職人でありながら、この意識の差に私は落胆してしまいます。これは若き日の私自身の反省点でもあります。

 これに対して図1の下側の表に、設計者にとってあるべき試作の意義を示しました。そのポイントは以下の通りです。

  • 「日々の活動」は、新商品の設計ではなく、「新商品の設計と設計検証」であるべし。
  • 「試作の目的」は、「初めての動作確認」ではなく、「第三者による設計検証の確認」であるべし。

「試作時100倍」という設計概念

 例えば、甘い汁粉やあんこを作るときには砂糖をたくさん加えます。どれくらい入れるのかと疑問に思ったときは、現在ではWebで検索すれば容易に答えが見つかります。Web検索できる端末が近くにない場合は、砂糖を慎重に足しながら、その「最適解」を求めればよいのです。

 しかし、職人は砂糖だけではなく、最後に隠し味として「塩」を加えることがあります。ここで「塩はどのくらい入れるのですか」と親方や兄弟子に聞いても、例えば東京の下町では、「ひとつまみだろ!」という程度しか教えてくれないかもしれません。このように、世の中には「経験則」や「勘所」と表現すべきとても曖昧なものが存在します。

 実は、設計者にも上記の塩のような経験則や勘所があります。その1つが、「試作時100倍」と呼ばれる設計概念です()。一品作りではない「量産品」に関し、試作時における1台当たりの試作費は100倍かかるというものです。

表●「試作時100倍」という設計試作費の概念
表●「試作時100倍」という設計試作費の概念
(出所:國井技術士設計事務所)
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 これを、自社の商品開発に合っているかいないかではなく、概念として理解しておきましょう。例えば、新たに灯油ポンプの市場に参入し、その開発における試作費を社長や役員から問われたとします。このときに「分かりません」と回答してしまっては、社長や役員は何を手助けしたらよいかが分からず、開発に対する期待感も薄れます。

 この場合、仮にその灯油ポンプを100本試作すると、1万円/本×100本=100万円の試作費が必要となります。試作に関し、若手設計者は次のことを覚えておくとよいでしょう。

[1]試作には莫大な開発予算を必要とする。

[2]1台当たりの量産価格が高い商品は、その試作費だけでも企業経営の大きなリスクを背負う。従って、簡単には新規参入できない。

[3]試作の結果を検図にフィードバックすることが重要。