目の前には仕事の山…。着手しやすい仕事から取り掛かるか、やっかいな仕事から始めるか。 仕事を進めるときに、多くのビジネスパーソンは迷うのではないでしょうか。
例えば、企画書を期日までに作成しようとする場合、まず全体像をつかむために、目次を作成するはずです。目次の順番に最初から書いていく必要はないので、書きやすい部分からどんどん書いていくのは効果的な方法です。冒頭がなかなか書けなくて時間ばかり過ぎてしまう、といった状況を防ぐことができます。また、書いていくうちに新たなアイデアや気づきが生まれ、作業を前に進めることができます。
人間の脳は、「何かを完了することで感じる喜び」を求めるという特性があります。この傾向は「完了バイアス」と呼ばれています。目の前の仕事を完了した喜びを感じることで、脳からドーパミンが放出され、注意力や記憶力、やる気が高まるのです。
やりやすい仕事を優先してしまう弊害
完了バイアスには、注意しなければならないこともあります。それは、着手しやすい仕事とやっかいな仕事があった場合、着手しやすい仕事を完了させることに過度に集中しすぎる傾向があるということです。
ハーバード・ビジネス・スクールのF・ジーノ教授がエモリー大学とノースウエスタン大学と共に行った研究によると、救急医療部門で働く医師たちは、来院患者数が増加して仕事量が増えてくると、症状の軽い患者への治療を優先する傾向があったそうです。医師たちは、比較的簡単な治療に対して完了バイアスを示したということです。症状の軽い患者は滞在時間が短いため、集中して治療すれば生産性は上がるでしょう。しかし結果的に、より深刻な症状の患者が長時間待たされてしまうことになります。また、症状の軽い患者を次々と治療していくと、より症状の重い患者を診察する前に、疲れてしまって仕事の質が落ちる恐れもあります。
私たちの普段の仕事でも同様です。片づけなければならない仕事が増えるほど、「終わったという喜び」を得るために着手しやすい仕事を優先しがちになります。気が付くとやっかいな仕事が後回しになって、ますますやっかいになってしまうのです。