全7434文字
PR

2.2 触力覚の計測方法

 手術支援ロボットの触力覚センシングには、図2に示すように、3種類の実装が考えられる(9)。一つは、器具の先端に力覚センサを搭載する方法である。この方法の最大のメリットは、臓器に触れたときの接触力がほぼ無損失で計測できることである。多くは器具先端の把持機構にあるいは手首部に力覚センサを搭載しており、ひずみゲージを用いたもの、MEMSによりセンサを製作したものなど、様々な方式が開発されている(9)~(13)

図2 手術支援ロボットの触力覚計測方法の分類
図2 手術支援ロボットの触力覚計測方法の分類
(a)器具先端にセンサを実装すると、摩擦などの影響を受けずに計測が可能である。(b)シャフト部にセンサを貼り付ける方法は安価に実現でき、かつ摩擦などの影響も小さい。(c)アクチュエータの駆動力から推定する方法は、安価かつメンテナンスが容易である。
[画像のクリックで拡大表示]

 器具先端にセンサを搭載する方式には、幾つかの課題が残されている。手術器具は、手術のたびに洗浄と滅菌を行う必要がある。特に、滅菌工程は、約120度の高圧水蒸気(オートクレーブ)、ガンマ線、エチレンオキサイドガス(EOG)のいずれかを選択しなければならないため、これらの工程に耐えられるセンサが必要となる。また、手術においては電気メスを用いることが一般的である。電気メスは数千Vの高圧の電気パルスによって組織を焼き切るデバイスであり(13)、器具先端に搭載されたセンサにとっては大きな雑音源となっている。

 電気式のセンサにおける課題を解決するために、光学式の力覚センサが開発されている。Peirsらは、光ファイバを用いて光の反射強度を計測する方式の力センサを搭載した手術器具を提案した(14)。また、Fiber BraggGrating(FBG)のブラッグ波長の変化により力覚を計測する手法も開発されている(15)。光ファイバは雑音耐性が高いものの、電線と比べると柔軟性に劣るため、da Vinciの器具のような手首関節のある器具の先端に搭載することは難しい。

 また、手術器具のシャフト部にひずみゲージを貼り付けるなどの方法もある(16)。この方法は、特別なセンサを製作する必要がないため、安価に実装することができ、センサのメンテナンスも容易である。ただし、この方法では把持力の計測は困難である。

 これらのことから、現状では器具先端にセンサを搭載するのではなく、患者の体外の駆動部において計測または推定するというアプローチが有力である。

 川嶋らは、図1に示す手術支援ロボットIBISを開発している(17)。このロボットは、空気圧アクチュエータによって駆動していることが大きな特徴である。空気圧アクチュエータは出力重量比が大きいため、電動のシステムと比べて小形化が可能である。また、減速機を介さなくとも十分大きな出力を確保することができるため、摩擦の影響を受けることなくアクチュエータ側での力計測が可能である。IBISでは、シリンダ内部の空気圧を圧力センサで計測してアクチュエータ駆動力を推定しており、器具先端部に加わった外力を3軸計測することが可能である(図3)。

図3 空気圧駆動システムにおける外力推定
図3 空気圧駆動システムにおける外力推定
圧力センサにより空気圧シリンダの内圧を計測し、その値とマニピュレータの動力学を基に外力を推定する。圧力センサはシリンダから数百mm 離れた制御盤上に配置することが可能である。
[画像のクリックで拡大表示]

 電動モータを用いたロボットにおいても、減速機などによる損失があるものの、モータの電流値を用いた力覚推定が可能である。Sangらは、da Vinci Research Kitでモータ電流とロボットの動力学モデルを用いて外力を推定する手法を提案した。Katsuraらは、外乱オブザーバを適用し、比較的シンプルな動力学モデルを用いた力覚推定手法を提案している(18)。この外乱オブザーバを用いた手法は現在広く用いられている(19)