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ホンダが2月に発売した新型「フィット」。これまでのアグレッシブなイメージから優しい雰囲気へ、デザインの方向は大きく変わった。
ホンダが2月に発売した新型「フィット」。これまでのアグレッシブなイメージから優しい雰囲気へ、デザインの方向は大きく変わった。

 新型コロナ騒ぎのおかげで、自動車業界でもイベントや発表会の中止・延期、自宅勤務に踏み切る企業が相次いでいる。いまこの記事を自宅でご覧になっている読者も多いのではないだろうか。筆者が一番変化を感じているのは、街中や電車の中で高齢者の姿がめっきり少なくなったことだ。平日は高齢者の利用が多いスポーツクラブの閉鎖も相次ぎ、家の中に籠もりきりになったらかえって体に悪いだろう。一刻も早くこの騒ぎが収束することを祈るばかりだ。

 さて今回取り上げるのは2月に発売されたホンダの新型「フィット」である。本来なら昨年の11月に発売される予定だったのだが、全車に標準装備する予定だったオランダのシャシー・ブレーキ・インターナショナル(CBI)製の電動パーキングブレーキ(EPB)の不具合が発覚、ドイツ・コンチネンタル製のEPBに切り替えたために、発売が3カ月遅れた。先代フィットがハイブリッドシステムの不具合で5回のリコールに追い込まれた経験から、発売を遅らせてでも品質の確保を優先したわけだ。

ユーザーの潜在ニーズを探る

 その新型フィットの開発テーマは、このコラムの「ホンダ次期フィットがスマイル顔になったわけ」でも取り上げた通り「心地よさ」だったという。報道関係者向けに開催された説明会でも、「出力」や「燃費」、「ボディー剛性」といった数字の説明はほとんどなく、いかに心地よさを追求したかということの説明に時間が費やされた。

 ではなぜフィットは心地よさを追求したのか。過去のフィットがヒットした要因としてホンダは、それまでのコンパクトカーが満たしていない潜在ニーズだった室内の広さや使い勝手を実現したからだと分析している。では、4代目となる新型フィットでどんな潜在ニーズを追求するのか、それを知ることが開発チームの課題となった。しかし潜在的なユーザーニーズを通常の調査で知るのは難しい。ユーザー自身も何が欲しいのか、よく分かっていない場合が多いからだ。

 そこで今回ホンダは新たに開発した独自の調査手法を採用した。それは数百枚のさまざまなシーンを撮影した写真を用意し、次にコンパクトカーを買おうと思っている人たちに対して、「これまでにクルマで不満を感じていることを表している写真」や「これからのクルマに求める価値を表している写真」を選んでもらうというものだ。そして、写真を選んだ人に対して、なぜその写真を選んだのかをヒアリングしていった。それらの写真にはクルマに関連のあるものも含まれているが、ライオンの顔や、浜辺で寝そべっている様子、人がジャンプしているところなど、クルマとは直接関係ないもののほうが多い。

潜在ニーズを探るために使用した写真の例。サラダ、波、シャツなどクルマに関係ない写真が多い。
潜在ニーズを探るために使用した写真の例。サラダ、波、シャツなどクルマに関係ない写真が多い。

 なぜ写真なのか。その大きな理由は「言葉によるズレ」をなくすことだったという。これまでの調査は文章を読んで回答してもらう形式だったため、各国で同様の調査をしても、翻訳によるニュアンスのズレによって、回答も違ってしまうという課題があった。その点、写真なら翻訳の必要がないから、回答にもズレが生じないという利点がある。

 こうして実施した新たな調査の結果を見ると、潜在的な不満としては「悪天候による運転ストレス」「雪道が怖い」「渋滞でのストレスや眠気」「狭い駐車場で乗り降りする際のストレス」などが、一方で潜在的なニーズとしては「ゆったり、リラックス、快適」「家族、安全、安心、ぬくもり」「自由、開放」「自然、環境に優しい、癒やされる空間」などが浮かび上がった。これは日本だけでなく、各国のユーザーに共通して見られる傾向だったという。そこで、これらをまとめた開発テーマとして「心地よさ」を新型フィットでは追求することになった。