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 デパートの必勝戦略というのを聞いたことがある。言われてみれば「なあんだ」という感じなのだが、要は隣接する競合店が扱う商品・ブランドをすべて扱い、なおかつ競合店にはない商品も扱うというものだ。自分の店だけで、両方の店の商品をすべて見られるようにすれば、競合店に行く客はいなくなる、という理屈だ。

 以前のこのコラムで、既存の完成車メーカーは米Tesla(テスラ)の価格競争力に対抗できていないことについて触れた。この局面をどう打開するか。最近のスウェーデンVolvo(ボルボ)の電気自動車(EV)戦略を見ていると、まさにEVの世界で「デパートの必勝戦略」を実行しようとしているように見える。すなわち、テスラの魅力を徹底的に学び、さらに、テスラにない魅力も付け加えることで対抗しようという戦略だ。

ボルボが2022年に発売する最高級EV「XC90」に代わる新型EVのコンセプトモデル「Concept Recharge」(出所:Volvo)
ボルボが2022年に発売する最高級EV「XC90」に代わる新型EVのコンセプトモデル「Concept Recharge」(出所:Volvo)
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大型ダイカスト部品を採用

 まず、学ぶほうの象徴的な動きが大型アルミニウム(Al)合金製ダイカスト部品「メガキャスティング」の採用である。ボルボは2022年2月、次世代EVの生産に向けて、今後数年間でスウェーデンのトルスランダ工場に100億スウェーデン・クローナ(約1300億円)を投資する計画を発表したが、その目玉がメガキャスティングだ。

 ボルボは22年内に最高級SUV(多目的スポーツ車)「XC90」の後継車種となる高級EVを発売する予定で、同車に新開発のEV専用プラットフォームを採用する予定である。それにもかかわらず、20年代半ばには早くも次世代のEVプラットフォームに切り替える計画だ。メガキャスティングは、この次世代EVプラットフォームに採用する。

ボルボが20年代半ばに商品化する予定の次世代EVプラットフォームには、リアフロア周りの部品をアルミダイカストで一体成形する「メガキャスティング」を採用する(出所:Volvo)
ボルボが20年代半ばに商品化する予定の次世代EVプラットフォームには、リアフロア周りの部品をアルミダイカストで一体成形する「メガキャスティング」を採用する(出所:Volvo)
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 このメガキャスティングは、クルマのリアフロア周りを1つのAl合金製にすることで、これまで多くの鋼製プレス部品をスポット溶接して接合していたのに比べて製造ラインを大幅に簡素化できる。さらに車体の軽量化によってエネルギー効率を向上させ、航続距離を伸ばすことが可能になるとボルボは主張する。サプライチェーンや物流を簡素化でき、製造工程全体での二酸化炭素(CO2)排出量の低減にもつながるという。

 大型Al合金ダイカスト部品で、車体フロアを構成する部品点数を大幅に簡素化するというアイデアは、テスラが最初に提案したものだ。テスラはこの大型ダイカスト部品の製造技術を「ギガプレス」と呼んでおり、既に米テキサス州の「ギガファクトリー」で製造する「モデルY」に採用している。ボルボのメガキャスティング部品のイメージ図を見れば、テスラのギガプレス部品にそっくりなことが分かる。

テスラの「ギガプレス」(右側)。従来、数十のプレス部品を溶接していたリアフロア周りをアルミ合金製ダイカストで一体化したもの。既に、米テキサス工場で生産する「モデルY」には採用済みだ(出所:Tesla)
テスラの「ギガプレス」(右側)。従来、数十のプレス部品を溶接していたリアフロア周りをアルミ合金製ダイカストで一体化したもの。既に、米テキサス工場で生産する「モデルY」には採用済みだ(出所:Tesla)
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