マツダは新型車「CX-60」の試作車を、同社の美祢テストコースにて報道関係者に試乗させるイベント「ラージ商品群技術フォーラム」を開催した。そこで体験したのは、直列6気筒エンジン、という響きで連想するような「静かで滑らかな高級車」ではなく、「運転する実感」を最大限に重視した新たな高級車像だった。
上級移行するユーザーの受け皿に
CX-60は、マツダが「ラージ商品群」と呼ぶ新世代商品の第1弾となる。従来の、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)を基本とした「スモール商品群」と異なり、ラージ商品群はフロントにエンジンを縦置きにし、後輪を駆動するFR(フロントエンジン・リアドライブ)レイアウトを採用するのが最大の特徴だ。搭載エンジンも、従来の4気筒エンジンに加え、新開発の直列6気筒エンジンを採用し、従来のスモール商品群の上級に位置する商品となる。
マツダはなぜラージ商品群を開発したのか。マツダ常務執行役員で商品戦略を担当する小島岳二氏は「ユーザーの上級移行に対応するため」と説明する。これまでマツダ車に乗っていた人は、SUV(多目的スポーツ車)の「CX-5」や中型セダンの「マツダ6」から乗り換えようと思っても、それよりも上級の車種がなかったため、他社の製品に乗り換えてしまう例も多かった。そういう「従来とりこぼしていた層の受け皿となる車種が必要だった」(小島氏)。特に、米国市場からはそういう要望が強かったという。
しかし、世界の完成車メーカーがこぞって電動化に移行する中、あえて大排気量の新型直列6気筒エンジンを搭載した上級車種を発売することに疑問を持つ読者もいるかもしれない。特に、新開発の6気筒エンジンにはガソリンだけでなく、主力市場の欧州で販売台数が急速に減っているディーゼルも含まれる。「マツダは大丈夫か、という声があることは承知している」(マツダ専務執行役員の廣瀬一郎氏)。
こうした疑問に対して廣瀬氏は、今回の試乗イベントで次のように説明した。「当社も2050年のカーボンニュートラルを目指すが、それまでの間は、当面内燃機関も混在する期間が続く。電気自動車(EV)という一つの解だけでは対応できない。内燃機関が当面残るとすれば、重要なのはいかに内燃機関の効率を上げていくかということと、カーボンフリー燃料へ備えることだ」。そのうえで25年以降には独自開発のEVプラットフォームを使ったEVを投入する。ラージ商品群は、その移行期を乗り切るための戦略商品だ。
具体的には、マツダ初のプラグインハイブリッド車(PHEV)を用意するほか、今回技術内容を公開したディーゼルエンジンは48V電源と組み合わせたマイルドハイブリッド仕様で、これも新開発の8速AT(自動変速機)と組み合わせる。8速ATはトルコンを持たず、エンジンと変速機構の間に最高出力12.4kWのモーターを配置し、その前後に湿式多板クラッチを組み込んでいて、短距離ならEV走行も可能な構造になっている。
一方のPHEVも、同様に8速ATとエンジンの間にモーターを配置するが、モーターの最高出力が129kWとマイルドハイブリッドの10倍以上と大きいため、モーターの長さも伸びるが、4気筒エンジンと組み合わせるため、パワートレーン全体の長さは6気筒エンジン+8速ATよりも短く、車体側の変更なしに収まっている。