前回のこのコラムではトヨタ自動車初の量産電気自動車(EV)「bZ4X」とSUBARU(スバル)「ソルテラ」の試乗記をお伝えしたが、今回は、レクサスブランド初のEV専用車種「RZ」について取り上げたい。レクサスブランドは、2035年にグローバル販売のすべてをEV化することを表明しており、先兵となるRZは、2022年冬以降に発売される見込みだ。今回、RZの実車を確認する機会があり、開発責任者にも話を聞けたので、改めて、RZの開発の狙いに迫っていきたい。
プラットフォームはbZ4Xと共通
まずレクサスRZというクルマのあらましについて簡単に紹介しておきたい。RZはハードウエア的にはbZ4Xと同じトヨタのEV専用プラットフォーム「e-TNGA」を採用する。バッテリー搭載量もbZ4Xと同じ71.4kWhで、ホイールベースも2850mmと共通である。ところが、大きく異なるのが搭載するモーターの出力である。前回のコラムでも紹介したように、bZ4XのFWD(前輪駆動)仕様はフロントに最高出力150kWのモーターを積むのに対して、AWD(全輪駆動)仕様ではフロントとリアにそれぞれ80kWのモーターを積む。つまり、FWD仕様とAWD仕様で、それほど最高出力に差をつけていない。
競合する日産自動車のEV「アリア」がFWD仕様では160kW(バッテリー容量66kWhの仕様)のモーターをフロントに搭載するのに対して、AWD仕様はリアモーターを加えて合計の最高出力を250kW(同)と大幅に高めているのに比べると、ここは大きな違いである。ところが興味深いことに、レクサスRZはAWD仕様が標準で、リアに80kWのモーターを搭載するのはbZ4XのAWD仕様と同じだが、フロントに搭載するのはbZ4XのFWD仕様と同じ150kWのモーターである。つまりRZは、同じe-TNGAを使いながらも、明確にbZ4Xよりも高性能の車種として位置づけられている。
もう一つ、bZ4Xと異なるのは、リアモーターに炭化ケイ素(SiC)インバーターを搭載することである。前後のモーターの合計出力が大幅に高いだけに、RZの航続距離はWLTCモードで約450km(開発目標値)と、bZ4XのAWD仕様の540kmよりも短い。SiCインバーターは通常のSiインバーターに比べて損失が少なく、そのぶん航続距離を延ばせる。
ただしコストはまだ通常のSiインバーターより高い。今回RZがSiCインバーターを採用したのには、航続距離を延ばすことに加え、プレミアムブランドであるレクサスのほうがSiCインバーターのコストを吸収しやすいことがあるだろう。さらにいえば、新しい技術であるため、いきなり量販車種に採用するのではなく、トヨタブランド車よりも販売台数の少ないレクサスブランド車にまず採用し、そこで実績を積んでからトヨタブランドにも展開するというトヨタらしい慎重さがあると思われる。